道路構造物ジャーナルNET

⑫構造物の欠陥との付き合い

次世代の技術者へ

土木学会コンクリート委員会顧問
(JR東日本コンサルタンツ株式会社)

石橋 忠良

公開日:2020.08.01

 今回は、構造物の欠陥に係るいくつかの話をします。一つは、欠陥構造物をなくすには、信頼性の高い工法ができたら、それまでの工法をやめていくことの勧めです。さまざまな場面で、変えるべきと思い、提案もしてきましたが、慣れ親しんだ工法をやめるというのはなかなかできないようです。
 もうひとつは、マスコミなどへの施工欠陥の投書があったことの話です。最後は、落下物が人に当たり、傷害事件となり、設計に関して警察から取調室にて色々聞かれたときの話です。取り調べの部屋は扉が1つだけの狭い部屋です。欠陥をわかっていて見逃すと、最悪は刑事事件の被告になるということを意識しました。

1.欠陥の生じやすい工法への対応

 以前紹介しましたが、開業間際に施工されたPC桁のグラウトに未施工のものがあり、開業後何年か後で、鋼材が破断して飛び出すことで発見されます。鉄道の開業時期を発表したら、それに合わせて逆算したスケジュールが決まります。土木工事の後には、軌道工事、そのあとには電気、信号工事、運転手の練習のための試運転の期間などすべて決められます。これに合わせて、各分野で工程を守るわけです。
 どの分野でも、遅れると開業が遅れる責任を負うことになります。土木は、決められた日には構造物の上の作業を軌道の業者に明け渡さなくてはなりません。明け渡せる状況にするために、グラウト作業などすぐにはわからない工種が施工されずに、次の業者に現場を渡してしまうことが起こったのでしょう。手を抜いてもわからない工法はやめて、手を抜いたら必ずわかる工法に変えることが必要です。

 PCグラウトについては、プレグラウトの製品があるものはそれを使い、太径でプレグラウトの製品のないものは、施工がされてないときは発見できるようにグラウトキャップでの施工というようにしたことを以前紹介しました。
 PCグラウトの充填が不十分なのは、材料も良くなく、設計もシースの隙間が小さくて入りにくいという問題がありました。海外から、粘性のある材料が輸入され、これを使うと充填不良が少なくなることがわかりました。
 土木学会の示方書の幹事会で、この輸入材料を使うように全面的に示方書に導入したら、と提案しました。この時に、PC業界の代表委員から反対されてすぐには示方書に入れられませんでした。今の材料でもちゃんと注意して施工すれば充填できるという理由です。注意がおろそかだとすぐに欠陥ができるようなものはやめたほうが良いと思うのですが、慣れ親しんだ方法を変えるのは抵抗が大きいものです。品質確保可能な方法ができたら、欠陥の可能性のある方法はやめていくことが大切だと思っています。以下にいくつかの施工欠陥の生じやすい工法について記します。

1.1 圧接の熱間押し抜きは信頼性が高い
 施工現場で鉄筋の上に乗ったら圧接部で鉄筋が折れたということも、新幹線を盛んに造っていた時代に時々耳にしました。圧接部が十分に接合されていなかったのです。圧接の施工管理や試験をしっかりするようにという文書が何度も出されていました。
 当時は圧接部の抜き取り試験をするのですが、抜き取った圧接部の供試体を途中ですり替えるなどということも噂になりました。継ぎ手のない鉄筋の中間部を熱してこぶを造り、1本ものと思われないように回転させて作るのだとの噂が聞こえていました。
 圧接は、国鉄の鉄道技術研究所がレールの接合の技術の応用として開発したものです。大井さんという溶接研究室長をされた方が圧接協会の技術的な指導を長くしていました。私が国鉄構造物設計事務所にいたときに、その溶接研究室から圧接の研究をしている大石橋さんが、こぶつきの圧接よりも、こぶをすぐにとってしまう熱間押し抜きのほうが、信頼性が上がるということで、説明に見えました。
 確認した結果、外観の目視で欠陥がわかるので、何度指導文書を出しても信頼性の上がらないこぶつきの圧接から、熱間押し抜き工法に全面的に変えました。レールの圧接も押し付けてレールの形状から飛び出した部分はレールの形状に削り取っているので、しっかり接合していれば断面を大きくする必要性はないのです。こぶは強度面からは必要性がないのです(写真-1)。


写真-1 熱間押し抜き工法の圧接

 圧接の接合は、鉄筋を高温の状態で押し付けます。押されて、接合部が外側に徐々に押し出されます。接合面の不純物などが外側に押し出されながら、中心部から接合していきます。その外側の部分を熱い状態で押しぬくと、接合が不十分だとひび割れが見えます。最後に接合する外側部分の欠陥を検査しているので、その外側が接合されていれば、鉄筋の中心は先に接合しているので安心です。
 超音波の検査は中心部の検査ですので、表面部に欠陥が残っていても合格となることがあります。しかもこのこぶを押しぬく方式だと目視でだれでも合否が確認できます。
 何よりも作業員が自ら合否の結果がわかるので、駄目ならその場で再圧接ができ、欠陥をなくして作業をしていけます。鉄筋を組んだのちに欠陥がわかった時の鉄筋のバラシがなくなります。
 私が圧接協会(今は継手協会)の理事を引き受けていた時に、この熱間押し抜きの方式を協会の示方書に追加しました。徐々にすべてがこの方向に変わっていくことを期待していましたが、設備投資などがかかることもあり期待通りにはなっていません。

 話が飛びますが、インドの新幹線建設に、鉄筋の継ぎ手工法としてこの熱間押し抜きの圧接を持ち込もうとしましたが、インドの鉄筋の製造方法は、表面を焼き入れ、焼き戻しで強度を上げている材料で、圧接や、溶接では強度が落ちることがわかり使うことを諦めました。現地では簡単な機械継ぎ手が主流のようです。鉄筋の製造方法も、わが国以外の多くの国は、ヨーロッパを中心にインドと同じ製造方法のようです。
 国内のメーカーに聞いたところ、インドと同じ製造方法で国内でも造ることもあり、それは輸出用とのことでした。SD295の材料で、SD490の海外用の鉄筋を造れるのだとのことです。国内ではJISの関係で販売していないと聞きました。曲げ戻し試験の規定が海外にはあり、JISには不十分な曲げ戻しの規定しかない話も以前紹介しましたが、国内で使われている鉄筋が、世界では必ずしも主流ではないようです。

 阪神淡路大震災の時のJR西日本の倒壊した高架橋の復旧に、スラブと梁をジャッキアップして再利用しました。この時、壊れた柱は切って、欠損した柱の部分は新しい鉄筋を既存の鉄筋に上下でつなぎます。その鉄筋の接合に片方は熱間押し抜きの圧接、もう片方はフレア溶接を用いました。この方式が最も欠陥の生じない方法と考えたためです。
 この地震で、壊れた柱や橋脚の内部の鉄筋を見ると、圧接部のほとんど切れているものもありました(写真-2、写真-3)。


写真-2 道路橋の地震の後

写真-3 鉄道高架橋の地震の後

 この時に、圧接業界の人から、圧接部の切れるような施工をした当時の圧接業者は復旧の工事にあたって契約から排除するべきだとの話もありました。建設時から年月を経ているので、そのような対応をしませんでしたが、まじめに施工してきた会社から見ると、業界の信用を落とした会社に怒っていたのだと思います。
 継手協会から、圧接技術の海外輸出の相談を受けたことがあります。熱間押し抜きならよいでしょうが、こぶ付きの圧接はやめた方が良いですよと話しました。作業員のモラルは我国より低いことが一般です。国内でも欠陥がみられるような工法は、海外では欠陥だらけになりますよと話しました。その後どうなったかは確認していません。

1.2 あと施工アンカー 
 東北新幹線の盛岡―大宮間が開業して約2年後のころです。仙台付近の防音壁の凍害調査で仙台に向かっている新幹線車内で連絡を受け、仙台でなく新花巻まで行って、電柱の落下を調査するようにとの連絡を受けました。
 仙台での防音壁の凍害とは、将来、直の防音壁の上に継ぎ足して、逆L型の防音壁にかさ上げするために、直壁の防音壁天端に継ぎ足すためのほぞ穴をあけて、そこに発砲スチロールでふさいでおいたところに水が入り、凍ってその周面のコンクリートを壊すという現象を生じさせていたもので、その状況を調べに行く予定でした。
 新花巻駅に降りて、電柱の落下した現場に向かったら、マスコミが集まっており、逃げるわけにもいかず、かといって無責任の話をして、いずれだれかの責任問題に発展するといけないので、うかつなことは言えない状況でのインタビューとなりました。NHKの夜の7時のニュースに私の顔が大きく出たと後から知りました。
 落下原因は、電柱を受ける高架橋の梁の位置を柱1本分変えたため、新しく電柱を支持する梁をあと施工アンカーで追加したことにあります。このあと施工アンカーの樹脂の注入の施工が不十分で、注入した樹脂の量が少ないため、鉄筋が抜けてしまい、追加した張り出しの横梁が落下したのです。
 責任の問題は別にして、技術上の問題は、樹脂の注入の施工管理方法が良くなかったことが原因で電柱が落下したのです。あと施工アンカー用の穴の中の空気を十分に追い出すように樹脂の注入口と空気抜きの位置をしっかり管理すればよいのですが、注入口と空気抜き口の位置が近く、中に空気を残したままで、樹脂が空気抜きからあふれ出して充填されたと判断してしまい、注入作業を終えてしまいました。穴の容積に対して樹脂の量が少ないので、時間経過とともに鉄筋の下端に樹脂が流動し、上の方には樹脂が入っていない状況となり、鉄筋がぬけてしまったのです。この時の樹脂は一般的なエポキシ樹脂です。
 この事故の後、多く使われているあと施工アンカーについて調査した結果、材料、施工にいろいろ問題があることがわかり、「あと施工アンカーの設計、施工の手引き」をつくりました。

 製品としての、あと施工アンカーに当時多く使われていた接着剤は不飽和ポリエステルという樹脂です。当時、このアンカーが施工時の引き抜き試験では鉄筋破断であったものが、施工後何年か後に引き抜くと簡単に抜けるという事象も報告されていました。また、1978(昭和53)年の宮城県沖地震の時にも、このあと施工アンカーを用いて施工されていた電柱回りの防音壁のアンカーが抜けて、防音壁が落下した事例もありました。
 そのため、材料について鉄道技術研究所に依頼して、コンクリートの中でも耐久性を担保できるものにしてもらうことにしました。その時、研究所の有機材料の研究室の人から言われたのは、不飽和ポリエステルというものは、同じ名前でも化学式はいろいろなものがあり、中にはアルカリで劣化するものがあるので、耐アルカリ試験をして合格する材料に限定しなくてはだめですということです。
 試験方法を決めてもらいました。当時の不飽和ポリエステル樹脂のアンカーの多くはこの試験で不合格となったようで、アンカーの会社から厳しすぎると苦情を言われた記憶があります。また接着剤としてモルタルを用いたあと施工アンカーもあったので、これも使えるようにしました。樹脂は有機材料であり、化学的に変化しやすく耐久性に不安なものが多かったので、耐久面では安定している無機材料のセメント系を重要部材には使うようにしました。最近は有機系でも新しい材料や新しい構造のアンカーも増えて、当時よりも信頼性の高いものになっているのだと思われますが、コンクリートのアンカーはアルカリで劣化しないことを確認してください。

トンネルのあと施工アンカー
 トンネルの補修に剥落防止の目的で、トンネル覆工の表面を部分的に覆うため、板などの部材をあと施工アンカーで止める場合があります。あるいは漏水に対応するために樋などをあと施工アンカーで取り付けることがあります。鉄道においては列車振動の影響が大きいようで、打ち込み式のアンカーは楔が緩んで落ちたり、またボルトを使用すると、ナットが緩んだりということがしばしば起きていました。その対応で、原則は接着系のアンカーを使用し、ナットは緩まないように接着剤をつけたりなどの対策をすることにしています。
 耐震補強でRB工法といって鉄筋で柱を囲み、四隅でネジ鉄筋をナットで締めつける工法があります。かなり強く締め付けるのですが、時間とともにナットが緩んで、鉄筋が下がってしまうということが起こりました。列車によって柱に生じる振動はわずかですが、それでもナットが緩むという現象が生じます。振動がある場所では、くさびやねじは緩んでしまうので接着剤を併用するなどの対策が必要です。

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