道路構造物ジャーナルNET

第54回 設計では設計者=発注者の意思が重要だ

民間と行政、双方の間から見えるもの

富山市
政策参与

植野 芳彦

公開日:2020.06.16

3.設計段階では何が重要か

 設計において何が重要か? というと、私は設計者の「意思」であると思う。設計者とは発注者のこと。どういう意思で、その構造物を作るのか? 官も民も希薄な方々が多い。だから、後で設計ミスが発覚しても、「設計思想」がよくわからないから、何が問題なのかも、わかりづらい。その設計は、何を目指したのか? その記録もない。まあ、これは上から言われたからやっているからだろう。しかしこれは土木技術者の精神からも外れる態度である。
 問題がありそうな構造物をチェックし、質問を投げかけると、担当者も上司もコンサルも明確な答えがない。本来、設計という作業には、十分な協議が必要である。発注者と受注者の意思がずれていたのでは良いものはできない。
 私の経験からしても、本四やNEXCO、その他の旧公団系では、1つの断面を決めるだけでも、何回も打ち合わせを行い、協議を行った。打ち合わせ協議は数十回行い、納得のいくものにしていくのが協議である。
 しかし、地方で見ていたら、特記仕様書に書かれている3回をやっとやっている。3回で、一つの設計がまとまるわけはない。地元企業は3回しか来ないのも意味が分からない。地元優先の意味がない。さらに、計算はソフトだより。中身は理解していない。さらに、「デザイン」や「景観」重視。設計において、一番重要なのは、「設計思想」を合わせることであろう。発注者側と受注者がずれていたのではおかしなものになる。しかし、打ち合わせ協議簿を見てもその辺は明確に残されていない。デザインが重視という思想があるならばそれもよい。ただ、デザインでは構造物は決まらない。できない。
 かつては断面計算を行うにも非常に労力を必要とした。単純な断面計算プログラムと手計算で対応し、断面が変われば、最後には解析の精度を高めるために、格子計算からやり直し、仮定鋼重と実鋼重、仮定剛度と実剛度を近いものにしなければ、本来設計の精度が悪いものになってしまう結果となる。

 現在、老朽化が問題になっている、50年を経過、もしくは40年程度の橋梁は初期コスト重視で耐久性をあまり考えていなかったことに問題があると思うが、現在それが、老朽化という問題になっている。当たり前のことである。
 しかし、それが行われてきたのには、初期コスト抑制という設計思想、理念が明確にあったからである。つまり、初期のコストを抑えたいという、高度成長期の命題だったのである。しかし、現在はその逆になるのが正解だと思うがいまだに、初期コスト重視。LCCとは言うが、本当にどこまで考えているのか?
 皆さん感じられるかどうかだが、「設計」とは、あくまで仮定から始まる。その仮定が実際に、作られるものに近いかどうかという検証も必要なのだ。今はどうかわからないが、本来の設計チェックはそこから始まる。「設計はフィクション」なのである。そして計算しただけでは、設計ではない。周辺の地形、土質状況や細部構造も考えてこそ設計なのである。細部構造のいかんによっては、その構造物の寿命も左右する。

4.まとめ

 今回あえてまた、設計に関して書いたのは、「設計」という行為をどうとらえるかによって、今後のインフラの在り方、維持管理に大きく影響を及ぼすからである。
 富山市では、整備する課の設計成果をめぐって、保全する課からクレームが来たと悩んでいた。これは、良い傾向であると思う。出来上がった成果でも、そのまま作るのではなく、後工程まで超スパンで考え、是正していくことが重要なのだ。最初に、設計する側は設計思想を明確にしてコンサルと現地調査から協議を重ね、富山市という市全体を考えて、(これは財政やその後の社会情勢、地域性まで)決定していく姿勢が必要なのだ。考え悩んで決定していくのが本来の設計の姿勢。
 そして、管理者としては、リスクも最小にしたいはずである。するとどうなるかというと、誠意を持って対応してくれるしかるべき能力のあるコンサルタントが重宝される結果になる。かつてのように金額が安いから、地元優先という判定は、本来は過去の遺物である。なぜなら、全体の発注量が減っているからである。できないやつにはできないのだ。

 設計において私の経験から言うと、コンサルの設計は甘い。コンサルの設計では実際に物は作れない。メーカーやゼネコンでは実際に作らなければならないので、コンサルの図面を相当手直ししているのをご存じか? ソフトを流してそのまま、メーカーや業者に聞いたり資料をもらってそのまま……というのは通じない。しかし、立場が少し違うのでそれでもまだよい。
 施工においても、以前、沓座のコンクリートの損傷の欠け方がおかしい橋脚の鉄筋探査をさせたら、途中までしか鉄筋が入っていなかった(手抜きなのか技量不足なのか? 配筋の意味が分かってないのか?)。まともな施工ではなかったのが40~50年経って発覚するわけだ。


橋脚の沓座にクラック(現在は補修済)

モニタリングの設置/鉄筋不足

 自治体にはおそらくこういったものが、無尽蔵にある。わからないものが設計し、わからないものが施工し、わからないものが管理する。こういう体制はもうやめましょうよ!
(2020年6月16日掲載。次回は7月中旬に掲載します)

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