HOME連載一覧「東北地方のRC床版の耐久性確保の手引き(案)におけるひび割れ抑制対策を構築した考え方」

連載詳細

シリーズ「コンクリート構造物の品質確保物語」㊲

「東北地方のRC床版の耐久性確保の手引き(案)におけるひび割れ抑制対策を構築した考え方」

横浜国立大学
大学院 都市イノベーション研究院
教授
細田 暁 氏

1. はじめに

 山口システムは、施工中に生じる初期ひび割れを無害なものに抑制する取組みからスタートしました。ひび割れを無害なものに抑制するために、施工の基本事項の遵守を前提とし、施工記録のデータベースと規準書であるコンクリート構造物品質確保ガイドを活用した設計・施工を中核に据えたシステムが構築されました。山口システムの哲学を基礎に据えて、群馬県でも品質確保システムの運用がスタートし、東北地方整備局においては品質・耐久性確保システムが構築され改善が重ねられようとしています。

 東北地方整備局では、山口県とは異なり、ひび割れの抑制が最初のニーズではありませんでした。凍結抑制剤の散布に伴う凍害、塩害、ASR等の深刻な進行性の劣化が生じている状況に対して、厳しい環境作用において耐久性を確保することがニーズであったと言えます。この難題に対して、まずは山口システムの施工の基本事項の遵守の考え方を取り入れて、品質確保の土台を構築した上で、耐久設計の改善や、ひび割れ抑制を後追いで検討していく流れとなりました。橋脚、橋台、函渠、擁壁等の一般的な構造物に対しては、山口県等の既往の施工実績も活用してひび割れ抑制設計を行える簡易なシステムも構築され、その骨子はこの連載の第24回で紹介しました。この東北地方整備局の一般構造物のひび割れ抑制システムは、「ひび割れ抑制のための参考資料(案)(橋脚、橋台、函渠、擁壁編)として2017年2月に通知されています1)

 今回は、東北地方整備局によるRC床版の耐久性確保システムの中のひび割れ抑制対策について、そのニーズと、どのような考え方に基づいて対策をまとめ上げたかを説明します。


2.高耐久RC床版の取組みとひび割れ抑制対策の必要性

 既設のRC床版にはひび割れが発生しているものが多く、新設のRC床版においては、施工段階で発生するひび割れはなるべく抑制されることが望ましいと言えます。しかし、竣工検査までの施工段階で発生するひび割れは、不適切な施工によるものを除けば、温度応力や、連続桁上の床版を複数ロットに分割して段階施工することにより生じる応力、さらには乾燥収縮による応力によっても発生し、影響要因も多岐に渡ります。また、どのレベルのひび割れが許容されるべきなのか、ひび割れが耐久性に及ぼす影響も議論が発散しがちであり、適切なひび割れ抑制対策を講じるのは容易ではありません。このような状況の中で、東北地方整備局の通知した「東北地方のRC床版の耐久性確保の手引き(案)2019年試行版」2)では、これまでの試行工事における検討・分析結果や膨大な温度応力解析の結果等に基づいて、ひび割れが有害でないものにするためのひび割れ抑制対策を取りまとめました。ここでは、そのひび割れ抑制対策の骨子について説明します。

 東北地整のRC床版の高耐久化のコンセプト2)を要約すると以下のようになります。

(1) 大型車の車輪の軌跡を考慮した桁配置や、適切な排水計画、重要構造物における床版上面のかぶりの10mm増厚などの設計段階での考慮

(2) 床版、防水工、橋面舗装の三位一体で長寿命化を実現できるような設計、施工

(3) 床版本体の多重防護の考え方による耐久性の向上

(4) 模擬床版による試験施工において不具合の発生要因を把握した上での丁寧な施工


 図1は、東北地方のRC床版に生じている土砂化、鋼材腐食、抜け落ち等の深刻な劣化の要因と、それに対応する多重防護の考え方をまとめたものです。


図1 RC床版の多重防護の考え方

 まず、水結合材比を45%程度以下に低減し、劣化に対する抵抗性を向上させました。次に、ASR抑制対策を主目的として、高炉セメントB種あるいはフライアッシュを使用することとしました。膨張材の使用を基本としましたが、後述するひび割れ抑制対策の検討過程で膨張材の使用は不可欠である、との結論に至りました。さらに、防錆鋼材の使用、十分なエントレインドエアの確保、十分な緻密性や膨張材の反応のための追加養生を含んだ多重防護の対策となっています。
 この多重防護の対策の実践として、高耐久床版の第一号橋である向定内橋(フライアッシュ使用)や高炉セメントB種を用いた第一号橋である新気仙大橋といった復興道路や復興支援道路での実装が進められました。
 フライアッシュを用いた高耐久床版は、向定内橋の後、いくつかの橋梁で施工されましたが、能代火力発電所のフライアッシュを陸送し、コンクリート製造工場でフライアッシュを手投入して用いました。7径間の連続鋼桁橋であった新気仙大橋では、この手法によるフライアッシュコンクリートの使用が困難との判断に至り、高炉セメントB種を用いた高耐久床版を施工しました。その後、高炉セメントB種を用いた床版は数が増えてきているものの、フライアッシュを用いたRC床版は施工されていません。フライアッシュの活用の今後の活性化が大いに期待されます。
 高炉セメントB種を用いた高耐久RC床版は、新気仙大橋を皮切りに、単径間のPCコンポ桁橋(彦平橋)、単径間の鋼桁橋(青ぶな山1号橋)、2径間連続鋼桁橋(新柳渕橋)、4径間連続鋼桁橋(小佐野高架橋)等の様々な構造で使用され、床版のひび割れのリスクが構造形式により異なることも分かってきた。
高炉セメントB種を用いた高耐久床版を施工した7径間連続鋼桁橋の新気仙大橋において、写真1に示すような橋軸直角方向のひび割れが発生しました。竣工検査時点で0.2mm未満でしたが、一部のひび割れについては床版下面からエフロレッセンスも確認され、貫通したひび割れであると観察されました。さらに付記すれば、床版上面からひび割れ上で表層透気試験を実施しましたが、表層透気係数はひび割れ以外の部分と同程度であり、ひび割れ幅が小さかったために養生や降雨等の影響で自己治癒したものと私は考えています。
 
写真1 高耐久床版に発生した橋軸直角方向のひび割れ

 フライアッシュを用いた高耐久床版については、構造形式、使用材料、施工時期等の影響もあるとは思いますが、施工中にひび割れの発生は確認されていません。一方で、高炉セメントを用いた高耐久床版については、新気仙大橋において追加養生の終了後にひび割れの発生が確認されました。今後、多くの床版で高耐久床版が施工される際に、ひび割れの発生を極力防止し、ひび割れが発生したとしても有害なひび割れとならないためのひび割れ抑制対策が必要と考え、検討を行うこととしました。
 複数の異なる構造形式の橋梁における試行工事で、材料物性の計測、部材試験体の作製、実構造物での温度・ひずみ・応力等の計測を行い、3次元の温度応力解析モデルの検証を重ねました。数値解析の結果と実際のひび割れ発生状況を比較しながら、竣工検査時点で0.2mm以上のひび割れを発生させないよう、なるべく簡易なひび割れ抑制対策を模索しました。ひび割れを有害であるか否かを判定する基準については慎重な議論が必要ですが、現状では実質的な補修基準となっている0.2mm未満とすることをひび割れ抑制対策の目標としました。有害なひび割れについての技術的な検討が進めば、ひび割れ抑制対策の目標自体を修正する必要もあると考えています。