道路構造物ジャーナルNET

第53回『コロナ後には新たな建設の時代が来る。一緒に取り組みましょう』

民間と行政、双方の間から見えるもの

富山市
政策参与

植野 芳彦

公開日:2020.05.16

3.やっぱり“人”である

 公共事業は減少し、「技術立国」という割には技術に対する、評価がされない、この国である。最近の若者の仕事の仕方を見ていると、質問が出てこない。若いうちは、経験も少なく、わからないことだらけのはずである。大学や大学院を出てきて、なんでもわかっているのか?というところはどうだろう。

 今のこういう時代だと、様々な経験できるチャンスはすくなくなるので、どん欲に吸収しなければプロにはなれない。打ち合わせなどで、コンサルと担当者が話しているのが、もれ聞こえてくるが、時々、気持ち悪くなってしまう。聞きかじりのきれいごと、理想論、ネット検索程度、広告値を話しているのである。なぜなのか、ひとえに、お互いに様々な実際の経験がないからである。それは、話を聞いていればすぐわかる。「技術の伝承・教育」ということを皆さん言ってはいるが、これも、上司の方々の仕事ぶりを見ていると、どうもそういうことは無理なようである。なにか、技術とは違ったところが忙しくなりすぎているのであろう。官僚化? というのは単純すぎる。昔、私の若かりし頃、仕事中に先輩が、コーヒーカップ片手に、若手の各机を回り、「何をやっているのか?考えているか?わからなければ聞けよ!」と言ってくれた。私が恵まれていたのかもしれないが、ある先輩方、部長までもが「会社の仕事だけしていたら、駄目になってしまう。外に目を向けろ。外に出ていけ!」と励ましてくれた。学会や研究会に積極的に出ろという意味である。しかし今は違う、内に籠ろうとし、組織で抱え込もう、管理しようとしているのではないだろうか?現在はコロナウイルスで、「お家に籠ろう」だがお内に籠っていると発展性はない。
 「診断」ということをみな平気で言っている。危険である医療の誤診率は公の数値で40%、実際には70%から80%であるといわれる。インフラの診断結果の精度はいかほどか? さらに気になるのが、よくLCCという言葉が聞かれる。「橋梁の寿命100年であるので、この橋はあと40年もたせなければならない。そのためには予防保全的に、●●を実施し……」と簡単に述べている。本当か? 本当に100年持つ設計をし、完璧な施工を60年前にしていたのか? それが見極められたのか? 当時は橋の寿命は50年と言っていたはず。50年として考えたものが100年もつ保障はないし施工時の不備も多々見られる。当時の設計は手計算、図面も手書きであった。そのために、多少安全かもしれない。しかし、施工では、現場での様々な制約を受け、なかなか完璧な施工とはいかない場合もある。


橋脚の損傷①

 インフラでは、診断と言っていることが、正確にできているか? ということである。私は、作ったこともなく運用・管理したことのない方々が診断できるはずはないと考えている。不都合な状況も含め、今目の前にある現実を解決しなければ進展はないと思う。地方自治体の橋梁を見ていると、どうも下部工に不安が残る。これはおそらく設計者も施工者も管理者もわかっていなかったのではないか? 上部工は昔は、裏設計という制度(?)があったし、上部工業者に照査義務がある。設計という行為は、ソフトに数値を入れて終わりではない。細部構造のデティールや、施工性、耐久性、維持管理性までを判断して行う行為だが、それが十分に理解できているかどうか?

4.まとめ(必要なのは財政の支援と使いこなすヒト)

 今は毎朝5時前に起きて、30~60分ほどウォーキングをして、3食きっちり食べて、昼寝もしている。6年分の垢を落とすために、天がくれた休息なのかもしれない。富山での6年の最後のころは、調子が悪かった。今回、病院通いをしようと思っていたら、この騒ぎで逆に行けない。先日知り合いの病院に行ったら、看護師さんではなく先生が自ら呼び出しにきて、「すみません、今、看護師が休んでまして……」「はあ、大変ですね!」となった。
 立場立場で役割は違うが、我々技術者とすれば、正しい判断とそれに対する責任と覚悟であろう。「日本の技術力は、世界一」という大本営発表は嘘である。「ヒト・モノ・カネ」の資源が十分にそろわなければ、必ず負ける。奇襲攻撃や意表を突いた戦略は一時的にしか功を奏しない。長期戦では物量や兵站が重要なのだ。つまり、財政の支援である。モノとカネである。しかし、それを使い対応するのはヒト!

橋脚の損傷②

 新型コロナに対する特効薬は開発されていない。実はインフラのメンテナンスでも、補修材料はほとんど承認されていない。これは前述したが、こういう状況下では、とりあえず覚悟と責任をもって、使ってみるしかないのである。実行しながら判断していくことが、未知のものに対抗する手段であり、非常時、過渡期の人間の役割でもある。それがなかなかできないのが役所であるのだが、意外と補修に関しては安易にやっている。技術の道は奥深い、そして一人ひとりが、一生をかけて身に着けていくものである。ヒーローはいらない。地道な努力が必要なだけである。新型コロナウイルスの件がどう落ち着くのか? 落ち着かせるのか? わからないが、経済に大きな打撃を与えていることは皆お分かりだと思う。同時にインフラの老朽化も今後大きな打撃を与えることになる。さあ、コロナ後には新たな建設の時代が来る。一緒に取り組みましょう。
(2020年5月16日掲載、次回は6月中旬に掲載します)

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