道路構造物ジャーナルNET

⑩支承部の損傷

次世代の技術者へ

土木学会コンクリート委員会顧問
(JR東日本コンサルタンツ株式会社)

石橋 忠良

公開日:2020.06.01

 昨年8月に中国の新幹線建設の現場に行ってきました。20年ほど前に中国がまだ新幹線の建設をしていないころ、数年にわたり新幹線の技術協力に関わりました。2004(平成16)年から計画した中国の新幹線の延長は、2018(平成30)年末で29,000㎞の営業となっています。これは日本が55年間で営業した距離の約10倍の距離です。今でも、中国では年間に2,000㎞を開業し、スパン1㎞を超える新幹線の橋梁も1橋は供用しており、さらに1橋は建設中とのことでした。
 私が技術協力で関わったころに比べて、技術力の進歩に驚かされます。この30年、日本の建設投資は大幅に減り、それに伴い技術力の進歩が止まってしまったのではないかと心配です。
 新型コロナ騒動で、医療や検査の状況を、各国と比べると、個人の能力は別として、我国の装備の能力の低さに驚かされます。建設分野だけでなく、ほかの分野の能力も世界の先進国のスピードに遅れてきているのかと心配です。

 今回は支承部の不具合についての話をします。今までに、既設構造物の不具合の事例の主なものを紹介しました。多くの原因は、設計や施工、検査の知識不足や、対応不足にあり、それらは対応可能であり、改善すればなくなるものです。時間とともに悪くなるというものは多くはありません。鉄もコンクリートも無機質なので、100年程度で自然に劣化するものではありません。
 しかし、施工が難しい構造は存在し、十分な注意を施工時に払わなくてはならないという工種もあります。これら工種は基本的には欠陥工法といえるのですが、ほかに良い方法がないので十分な注意をしながら欠陥を作らないようにしているのです。ほかに良い方法が見つかったら変えていくことが望ましい工種です。今回の話の支承(シュー)の据え付けも、なかなか難しく、トラブルがなかなかなくならない箇所です。

1.初めに

 最初の鉄筋コンクリートの桁の支承は、先輩からの話では馬糞紙(茶色の質の悪い厚紙)で縁切りしただけだとのことでした。山陽新幹線や東北新幹線で、コンクリートの長大橋がプレストレストコンクリートで盛んに造られ始めたころ、この先輩が支承の工事費が橋梁工事費の2~3割を占める状況を、金の靴(シュー)を橋にはかせていると言われました。普通の靴にする検討をしなさいということになりました。
 シューに関するトラブルは橋梁において最も多いものでした。特に錆びて動かなくなり、桁座や桁端を壊したり、一部のシューが沈下して桁が3点支持となり、桁にひび割れが生じたり、桁があおったりという事象が生じていました。その先輩から鉄は錆びるが、ゴムは錆びないし、たとえ劣化してひび割れても移動は拘束しないだろうからと、ゴムを、長大橋を含めたすべてのコンクリート桁のシューの材料にする検討を指示されました。
 表-1は1960(昭和35)年ころのシューの標準的な使用区分です。表-2はその当時のPC桁の標準設計に用いたシューです。短いスパンはゴムのパット(図-1)が使われ、25mのスパン付近は鋳鉄のシューが使われ、それ以上の長いスパンにはロッカーシューが標準設計のPC桁用に使われていました。簡易パットシューの材料は、硬質合成ゴムが多く使われていました。東海道新幹線の長大橋は鋼構造ですが、騒音問題からその後の新幹線では長大橋もPC桁となっています。山陽新幹線より採用されたコンクリートの長大連続桁にはローラーシューやベアリングプレートシューが使われていました。


表-1 シューの使用区分


表-2 PC標準設計桁に用いられたシュー


図-1 簡易パット支承の例

 各シューの問題点を以下に示します。

2.鋼製シュー

 鋼製シューのトラブルで多いのは、錆びて移動しなくなることによるものです。桁は温度で、日々、伸びたり縮んだりしますし、また季節変動では夏には伸びて、冬には縮みます。この伸び縮みを拘束しないようにシューが存在します。  鋼製のシューが錆びて、上シューと下シューで滑らなくなると、桁端部や桁座のコンクリートにひび割れが生じます。桁の伸び縮みを吸収しようと、そのひび割れが開閉します。斜めひび割れが生じ、活荷重がそこにかかるので、そのひび割れたコンクリートの剥落なども生じることがあります。荷重を受けている重要な部位なのですぐに補修をしないと安全に支障をきたします。
 鋼製シューのもうひとつのトラブルは、シュー下面のコンクリートの損傷です。シューを浮かせておいて、その下にドライモルタルや無収縮モルタルを施工したりします。上がシューでふさがった状況での施工ですので施工の欠陥が生じやすいのです。供用中にシュー下面のモルタルやコンクリートが割れて飛び出したりして、シューが沈下するということが生じます。その場合、損傷は桁にも現れ、桁が3点支持になり、桁に大きなひび割れが生じることにもなります。
 シューの据え付けのためにシューの下に金属製のくさびを置いて施工し、それを撤去せずに残している場合もあります。この場合はシュー下面のモルタルに力が分散せず、くさびでシューを受けることになり、シューが沈下したり、シューが割れてしまうという損傷も生じています。
 宮城県沖地震(1978年(昭和53)年)で、東北新幹線の鋳鉄製シュー(図-2)の水平移動防止の突起がほとんど壊れました(写真-1)。


図-2 FCシュー


写真-1 地震で水平移動防止の突起が壊れて、上シューが落下(FC材(鋳鉄))

 鋳物は伸び能力がないため、設計荷重より大きな荷重が作用したので、割れてしまったのです。この時、ベアリングプレートシューなどに用いていた鋼製の水平移動防止の突起は大きく曲がりましたが、破断せずに落橋防止の機能を果たしていました。水平移動防止の材料は、粘りのある材料としておくことが大切だと認識させられました。
 スパンが大きくなると図-3のベアリングプレートシューや、図-4のローラーシューが使われていました。


図-3 ベアリングプレートシューの例


図-4 ローラーシューの例

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