道路構造物ジャーナルNET

⑤阪神大震災を振り返って~鋼管矢板基礎との出会い~

現場力=技術力(技術者とは何だ?)

株式会社日本インシーク
技術本部 技師長

角 和夫

公開日:2020.02.01

 未曾有の阪神大震災から25年。地震に関する私の周辺で起こったトピックスを紹介する。

(1)阪神大震災の当日
 1995年1月17日、午前5時46分。明石海峡大橋3P主塔付近直下(深さ16km)を震源とするM7.3の阪神大震災が発生した。この地震により阪神間の交通網や都市機能は壊滅状態に陥った。当日は、広島県尾道市の社宅で寝ているところに震度4の地震。びっくりして起きたところでテレビを見ると緊急ニュースが流れていた。当時は、世界一の斜張橋、多々羅大橋の設計・製作に本格的に動き出したところである。本四公団、向島工事事務所に出勤しても地震の話題で手もつかず。次第に地震の被害状況が分かってきた。そのうち、明石海峡大橋はどうなった、という話題になる。吊橋ケーブルが既に架設されている状況(図-1参照)でもあり、主塔はそんなに被害が無いと楽観していた。後から判明するが、①2Pと3Pの主塔基礎が反対方向に動いた(結果的に、中央支間長が1.1m長くなった(図-1参照)、②ケーブルのスクイジングマシン(ケーブルを円形にまとめる機械)(図-3参照)が壊れた、ということだった。



 注);スクイズとは、ケーブルバンドの取付がし易いようにケーブルを円形にする作業。プレスクイズ(掛矢でケーブル表面を叩き略円形に仕上げる。ケーブル内の配列修正と本スクイズに備えてケーブル断面を略円形にするもの)と本スクイズ(スクイジングマシンによってケーブルを円形に仕上げる)に分けられる。

(2)本四エキスパートチームの発足
 震災後、最初の終末の日曜日の夕方、第三建設局の建設部長から電話がかかってきた。想像はしていたが、月曜日から1週間、震災の応援に行ってくれと。月曜日の昼過ぎに何とか新幹線、在来線を乗り継いで神戸市中央区三宮の神戸商工貿易センタービルに着いた。このビルの中に本四公団第一建設局が入っている。招集されたメンバーは12名程度。公団当局からの説明では2班に分けて、それぞれ兵庫県担当エキスパートチーム、神戸市担当エキスパートチームに。兵庫県の応援要請は、西宮市に架かる「西宮大橋」(最大支間長140m、5径間連続RC床版鋼箱桁橋)。状態は落橋寸前。一方、神戸市の応援要請は、三ノ宮駅とポートアイランドを結ぶポートライナーの橋梁。エキスパートチームには設計知識(出来る)がある2名を選んでいるので私ともう一人が各班に分かれることに。角君はどちらがいいですか、と聞かれるから、当然のごとく特殊橋梁か大きな橋がある方に行くということで兵庫県に決定した。

(3)西宮大橋の被災状況
西宮大橋は、臨港道路札場筋線と西宮浜を結ぶ5径間連続RC床版箱桁橋である。橋長は440m。最大支間長は140m。支持条件は、M-M-F-F-M-Mの中二点固定である。基礎には、道路橋では初めて鋼管矢板井筒基礎工法(昭和44年)が採用された(写真-2参照)

 阪神大震災では、橋軸直角方向に強い加振力(上部工総重量8.000t)を受け、その結果、弱点となったのが中央二基の固定橋脚(P4,P5)の両サイドの可動橋脚(P3,P6)(M)が直角方向にせん断破壊を起こした。中二点固定橋脚は健全で、その代わりに支承が破断し、上部工が橋軸直角方向に約80cm飛んで何とか橋脚梁上に着地した。

 1)P3橋脚の損傷
 躯体が水平に破断し、上部は橋軸直角方向に約80cmずれている。コンクリートの 剥離、鉄筋の露出が見られる。メカニズムとしては、P4,P5の固定橋脚の橋軸直角方向の耐力が大きく、支承が弱点(破断)となり上部工が約80cm移動。両サイドの可動橋脚(P3,P6)の耐力が無く破断したものと考えられる。
 2)P6橋脚の損傷
 水平に破断した箇所から斜めにひび割れが延びている。躯体はほぼ完全に破断。
 3)共通的な原因
 橋脚破断位置は、軸方向鉄筋の段落とし部。帯鉄筋間隔は300mmと少ない。典型的なせん断破壊先行型である。また、私自身今までに見たことがないようなコールドジョイントであった。これも破断に至る大きな要因となっている。

(4)エキスパートチームの報告書と裏話
 兵庫県チームの上部工総括として兵庫県港湾課に提出した報告書について記憶をたどりながら記述する。
 ①上部工は健全で再利用可能。ベントを構築して支承を交換。上部工を移動。
 ②下部工は再構築。
 ③基礎は鋼管矢板基礎であるが周囲はヘドロで埋まっており健全かどうか判定が不能。橋脚から基礎に向かって伸びているクラックがどうなっているか見極める必要有り。
    ④今後、設置されるであろう兵庫県の委員会意見も踏まえ、是非とも鋼管矢板の健全性を調査して欲しい。
 また、裏話をご紹介する。
  西宮大橋の調査のベース基地となっていた尼崎港管理事務所での会議の一場面をご紹介する。出席者は、県港湾課、管理事務所、エキスパートチーム、M重工業(上部工施工)、S建設(下部工施工のスーパーゼネコン)、コンサルさん。これまでに見たことがないような素晴らしいコールドジョイントを施工したS建設の工事長(役職)が、声高に「Mさん、さっさとベントを調達したらどうか」とまくし立てる。余りに頭にきたので、「こんな酷い橋脚を作っておきながらその言い方は何だ」と一喝した。M重工業の担当者は知り合いでした。それ以降、S建設は私の中では抹殺されました。

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