道路構造物ジャーナルNET

【オピニオン】特殊高所技術について

特殊高所技術――足場や重機を使わず「人の目」に拘り点検

一般社団法人特殊高所技術協会
代表理事

和田 聖司

公開日:2015.04.01

 来る高齢化社会、人口減社会に向けて様々な業務用ロボットの開発が広く歓迎され、促進されている。建設業界でも国土交通省を中心にロボットの活用が歓迎される風潮にある。災害の初動など有用な事態、現場があることは確かであるが、橋梁や法面、トンネルなどの点検用としてはどうだろうか。今次の次世代社会インフラ用ロボット開発・導入に向けた現場検証を見てもまだまだ改良の余地はありそうだ。特に近接目視代替はともかく、現場点検でのもう一つの重要な手法である打音検査が可能なロボットはほとんどない。加えて点検現場では「点検だけでなく(小さい損傷があった場合は)小規模な補修もして欲しい」(某高速道路会社)というニーズもある。そうしたものに応えられ、なおかつ足場を必要とせず点検できる「特殊高所技術」について一般社団法人特殊高所技術協会 代表理事の和田聖司氏に3回にわけて論じていただいた(前文文責:井手迫瑞樹)

1.「特殊高所技術」とは?

 「特殊高所技術」とは、技術者が足場や重機を使用することなく、ロープや特殊機材を用い、橋梁などの高所において、調査、点検、補修などを可能にする技術である、と説明している。 国土交通省の新技術情報提供システム(NETIS)に登録されており、国土交通省が「自ら活用の促進を図る」としている有用な新技術に位置づけられている技術だ。


           写真-1 斜張橋ケーブル点検状況

 大変シンプルかつ、アナログな技術であり、一見すると、ロッククラライマーがロープにぶら下がって作業をしているように見えることから、初めてこの技術に触れた人の中には、「危険作業である」と誤解した人も少なからずいるのではないだろうか? このような誤解は視覚のみから得られる印象としては、至極当然の反応だろう。 
 それでも、社会インフラのメンテナンス分野を中心に、「特殊高所技術」が活用される場面は確実に増え続けている。 見た目の印象と違い、高い安全性が大きな後押しとなっている。 かつて、NETISを登録する審査の席で「ロープに人がぶら下がって対象に近接、これのどこが新しいのですか?」と聞かれたことがある。当時私は、なんと的を射た質問なのだろうと思ったことを覚えている。
 実はその通りなのだ、人がロープにぶら下がって近接すること自体は新しくもなんともないのである。新しくないとはいえ現実的には「特殊高所技術」が誕生するまで、社会インフラの維持管理業務の中で、ロープに人がぶら下がって対象に近接し、作業を行うということが、公に実施されることはなかったのではないだろうか? 少なくとも、計画書に書けるような内容でなかったことは間違いない。
 では、何が新しいのか? それは「ロープに人がぶら下がって対象に近接」、これを安全に運用することが出来るということが新しいのだ。 実は「特殊高所技術」は、NETIS試行実証評価において「従来技術に比べ安全性は向上する」という評価をうけるほど安全性に対する評価が高い技術なのだ。 安全性については、また後で詳しく説明する。

2.適用範囲

 「特殊高所技術」の適用範囲は多岐にわたる。 道路構造物では、主に橋梁やのり面などで多くの実績を有しており、橋梁の場合、橋長が数㍍から数百㍍あるような長大橋まで広く活用されている。 高所だけでなく、重機の使用が困難な狭隘部においても適用が可能である。 その他、水力発電所の水路構造物など大規模コンクリート構造物の維持管理等に活用されることが多い。 電力関係としては、風力発電機の調査、点検、補修などの需要が増えている。 実は、我が国は欧米などに比べ、風力発電機の落雷被害が多いのだ。


                 写真-2 風車ブレード点検状況

 近年、公衆災害の可能性がある風車事故が多発しており、経済産業省が定期点検を義務づける方針を発表している。 これによって、風力関連での需要は増える一方である。 実は、対象構造物が何か?というのはあまり重要ではない。 従来工法では近接が不可能、または困難な高所全般が対象ということになる。 そこで何が出来るのかということだが、これは技術者の経験や能力に依存することになるだろう。 株式会社特殊高所技術では、非破壊検査を含む各種調査、点検、ひび割れ低圧注入などの簡易補修等を実施することが可能だ。


           写真-3 橋脚ひび割れ低圧注入工事状況

 「どれくらいの重さの物まで扱うことが出来ますか?」という質問を受けることが多いので、少しふれておこう。 実際には、調査、点検、簡易施工などで用いる機材は、それ程重い物があるわけではないのだが、例として挙げるならば、油圧レンチやコアドリルなどだろうか? 最も重い物でも20~30㌔程度だと思われるが、この程度の重量ならば全く問題なく扱うことが可能だ。 技術者が直接手に持って作業をするというよりは、機材も技術者同様、ぶら下げて使用する為、吊り下げることさえ出来れば重量に制限はない。
 また、法的な制約がほとんどないため、足場の仮設のように届出が必要なケースはほとんどない。 そのため、緊急対応も可能であり、しばしば災害時にも活用されている。 余談だが、橋梁の維持管理の世界では、労働安全衛生法がうまく機能していない場面に出くわすことが多い。梯子作業などはその代表格と言えよう。梯子は労働安全衛生法上、作業床ではないため、作業員に対して別途墜落防止措置を講じる必要がある。 しかし、私が知る限り、梯子作業時適切な墜落防止措置が講じられているケースは稀である。 最近あらゆる分野で活躍が期待されているマルチコプターについても、現行の航空法が適用されることに、ほとんどの関係者が気づいていないことも、大変残念な事実だ。

3.はじまり

 国土交通省は、昨年7月より、省令により、2㍍以上の全ての道路橋に対して、5年に1度の近接目視点検を義務付けた。  この約7年前、アメリカでは、社会インフラに関係する大きな事故が発生している。 ミネアポリス高速道路崩落事故(※1)だ。 ミネソタ州・ミネアポリスで起きた道路橋の崩落事故が、アメリカ国内のみならず、我が国の橋梁保全にも大きな影響を及ぼしたことは周知の事実だろう。 この事故を受けて、国土交通省は日本国内の道路管理者に対してアンケートを実施、全体の86%で5年に1度の橋梁定期点検が実施されていないことがわかった。 日本よりも高度経済成長期が10年早い国、アメリカ。この国で起こった大惨事は、社会インフラの維持管理に携わる者全てに、我が国でも同様の事故が起こる可能性を示唆した。 まさに「荒廃するアメリカ」(※2)ならぬ「荒廃する日本」である。 私自身もこの結果を見て愕然としたのを昨日のことのように覚えている。


                   写真-4 長大橋の維持管理状況

 ミネアポリス高速道路崩落事故が起こった約1ケ月前、某高速道路会社の橋梁技術者から、長大橋の維持管理、特に詳細調査で使いたいという強い要望に応えるかたちで「特殊高所技術」はスタートしている。 当時、私が、この出来事に対して、運命的ものと同時に強い使命感を感じたことは想像に難くないだろう。
※1:平成19年8月2日(日本時間)アメリカ合衆国ミネソタ州ミネアポリス市において、州が管理する幹線道路(I-35W)のミシシッピ川に架かる鋼上路トラス橋が、供用中に崩壊し、多数の死傷者が出た事故。
※2:1930年代のアメリカにおいて、ニューディール政策のもと建設された大量の社会インフラは十分な維持管理がされないまま50年が経過し、1980年代、老朽化が進んだことによって、「荒廃するアメリカ」と呼ばれた。

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