道路構造物ジャーナルNET

㊸インハウスエンジニアの責任と決断

民間と行政、双方の間から見えるもの

富山市
建設技術統括監

植野 芳彦

公開日:2019.06.16

3.最近思うこと

 今年度から点検の第2ステージが始まった。
 最近、「コンクリート診断士会」の会合に出ていて感じたことがある。まず何が目的の会なのか? 分からない。「学術的な会」にしたいのか? 「実務的な会」にしたいのか? メンバーを見ていると後者なのではないかと思ったが、そうでもない。まあ、勉強していくことは良いことだとは思う。



点検ロボットの実証

 話を聞いていて、驚いたのは、「発注者に代わって診断している」という点である。診断士としては、責められるところは無い。しかし、管理者としては、おかしくないか? と疑問に思う。責任は誰にあるのか? という事である。
 「診断」という事は一体誰が行うべきなのか? 安易にコンサル等に任せて、自分達の判断を入れないのは職務怠慢である。「丸投げ」行為である。だから、ここに、「点検さえすればよい」という悪い傾向が出ているのだと思う。
 決められたことさえやればよいという、悪い傾向である。まあ、国全体がそうなのであろう。今更始まったことでもない。一番大きな課題は、「決められない」と言うところに有る。本来、「決断」と言う行為には「責任」が伴う物である。
 たとえば、良くインフラの診断は医療行為にたとえられるが、医療行為で「診断」は医師が行う物である。国家資格を持った医師が行うのである。レントゲン技師は「診断」はしない。この医療行為の診断における、「誤診率」というものがある。様々な、統計で違っているがほぼ「40%」だそうである。多いデータでは「70%」という事も言われている。
 どう思うだろうか? 「診断」とはそれくらい難しい物なのである。自分の知識と経験をフル回転させてやっていくべきものである一方、経験が浅いと間違える可能性がある。だから、「セカンドオピニオン」が必要であり、重大な症例に関しては、「カンファレンス」も必要になってくる。別のヒトの意見も聞こうというものである。第2ステージでは、本来の点検の意味を考え、自分達の「責任」を考えどうすべきなのか? を考える時期である。


富山市では橋梁マネジメントに際しカンファレンス(検討会)を開催している

カンファレンスの様子

 インフラは、造ってから「運用」の期間が長い。この期間をどうして行くかというのが維持管理である。しかし、重要なのは、本当は最初なのである。「設計ミス」「初期不良」「耐震検討不足」等があれば、所定の期間はもたない。

4.まとめ

 「今年度は植野塾はやるんですか?」という質問を外部から多くもらう。ある意味、植野塾は私の責務だと考えているので、やる気ではいる。しかし、事務局から言ってこないので様子を見ている。これは、強制する物ではないし、求められれば実施する。価値があると思う人間は出ればよいし、自分には必要ないと思えば出る必要は無い。一つ言いたいのは、私も大変であるし事務局も大変なので、その辺も理解していただきたい。


植野塾

 冒頭の設計ミス、これは軽微なものは多々ある。自分でも散々やってきた。しかし、安全性や耐久性にかかわるようなものはダメである。ルール違反もダメ。レオパレス問題に良く似ている。役所の職員の無知を利用し、ごまかそうと言うのもダメである。これは、役所側が厳格な態度で行えば解決できる。
 しかし、これは今始まったことではない。現場を見ていると、おかしな物がたくさん有る。設計不良や施工不良による潜在的な老朽化要因はかなりあると考える。こんなことをしていたら、予防保全も何も無い。究極の予防保全は計画・設計時になるべく耐久性能を考えた設計を行い、施工精度をより上げていくことである。つまり、良い物を造ろうと言うことである。設計と言う行為が本来どういう行為なのか? 今のわが国では「仕様設計」になっているのでわかり難い面もある。ルーチンワークで設計し、「設計した」と思ってしまっている。その仕事の目的はなにか? 目指すものは? そのためにはどういう検討が必要か?
 よく、「やったやった」「あれは俺がやった」という者が居るが、本当に何処まで考えたのか? 合理的な解析法、解析モデル設定・・・・など、考えているのか? 「ソフトでやりました」ではダメなのである。そういう人たちは、「設計者」ではないプロの仕事ではない。「作業」をしているだけの「作業員」なのである。(失礼な言い方かもしれないが)
 「仕事」をしているつもりで「作業」をしている人間のなんと多いことか!


(2019年6月16日掲載、次回は7月中旬に掲載予定です)

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