道路構造物ジャーナルNET

㉞橋梁トリアージ

民間と行政、双方の間から見えるもの

富山市
建設技術統括監

植野 芳彦

公開日:2018.09.16

1.はじめに

 まだまだ暑い日が続きますが、体調など崩されてはいないでしょうか? 先日の豪雨災害、それに台風と災害がどんどんやってきます。我が家では、関東に台風が来た際に、女房が窓にかかっていた簾を外そうとして、脚立から落ち、頭を花壇の縁石にぶつけて怪我をして、救急車で運ばれました。頭を打ち、外傷は7針。内部はCTでも検査をしたようですが、今後、様子を見ていく必要があると思います。たまたま息子が家にいて対応してくれたので、大事には至りませんでしたが、やはり遠くにいると、なにかあっても直には行けません。以前は親の心配をしていましたが、自分たちも年なので、やはり老朽化は大変です。
 これもインフラ・メンテナンスにもつながるところがあり、外科対応は楽だが、内部の損傷を見つける方法も治療法も限られ、しかも限度があるというもどかしさを感じました。
 さて今回は、編集者から「橋梁トリアージ」について書いてくれとの依頼があったので、それについて書きます。しかし、「富山市の橋梁トリアージ」は富山市のものであり、他市ではそれぞれの環境から再考しなければならないことを強調しておきます。

2. 橋梁トリアージ

 私が言う「橋梁トリアージ」は、決して技術的に難解な作業があるわけではない。富山市の「橋梁マネジメント基本計画」の中での、方策であり一つの段階的手法を上げたものである。他の方策と同様に、実行していく中で、とりあえず初期の段階を示したものである。方策には終わりもあれば見直しも必要となる。現段階的には、5年間の全数近接目視が終了するに当たり、次の段階に移行していくべきものである。平成24年度の「長寿命化計画策定」で実現が困難であった部分を再考し、実現可能なように、プライオリティをつけようというもので、緊急性を実感させるために、「トリアージ」という言葉を使った。
「橋梁トリアージ」と言うべき選択と集中の考え方は、構造物の運営・維持管理を実行していく上で、必要不可欠なものである。「事後保全から予防保全へ」と言われる中で、数多くの構造物を持つ自治体では、どうして行くべきか? やはり限られた予算の中では、1年度の中で対処できるものは限られてくるので、プライオリティをつけなければならない。赴任前から考えていたことだが、実際の現場で職員のやっていることを見て、1つの方向決めをしてやらなければならないと、ますます考えたわけである。ではどう考えるかであるが、地方自治体の職員の動向を観察し、彼らの日頃の行動から、まず「しくみ」が重要であり、技術的なところは後回しで良いと考えた。そういうことから、事態の緊急性も考え、「橋梁トリアージ」としたわけである。


橋梁マネジメントへの疑念が生じた事例

選択と集中によるメリハリのある橋梁マネジメントに

 昨今の世の中は、物事を言葉だけに反応し勝手な解釈をして批判していく社会である。これは、実は「実践者」にはまったくふさわしくなく、迷惑な状況である。社会の風潮が、物事の実践をどれだけ遅らせているか? 本質を見ない社会ということである。私が人生で目指すのは「実践者」である。政治的に理解されず邪魔をされても、社会のためには実践していきたい。
 トリアージに関しては、複数の友人の医療関係者から話を聞いた。東日本大震災時には、非公式に義弟の関係からある医療団のボランティアに参加し、周囲の医療関係者から話を聞き、現地の方々の状況も見てきた。目的は、様々な情報を生で得たかったからである。その中で印象的だったのが、トリアージの話。
「非情にならなければできない」「もっともっと助けたいと思うのも、切り捨てなければならず、非常に残念」「家族、親族のトリアージをしろと言われることは感情的に非常に難しいだろう」「同じ答えを次にまたするかというとそうはできない」という事実である。そしてこれに衝撃を受けた。「一人でも多くの命を助けたい」
 しかし、限られた時間、限られた人員、限られた薬剤で、という条件が付けられた極限の中でどうしていくかということである。「トリアージとは時間との戦いなのである」
 トリアージは決断の繰り返しである。決断ができるかできないか? というのは知見に裏付けされた性格なので向かない人たちもいる。さらに決断をするときは、非情にならなければならない。人からよく思われたい人には不向きな作業である。それで決断が下せないうちに時間が経ち、取り返しのつかない状態が訪れる。つまり、人気商売のタレントや優しい方はやらないほうが良い。管理者においても決断力のない者は関わらないほうが良い。こう書くとまた苦情が来るが、他人に良く思われたいという方々は、これからの管理者には向いていない。税収が減少する中、サービス水準は下げていくしかない。サービス水準が下がれば批判は当然のごとくやってくる。これに耐えられるかが問題である。批判に耐え、悪者になる覚悟が必要である。現在の自治体の職員の多くや議員さん方には、向かない仕事である。こういう仕事は、本来「実践者」に任せてもらえばよい。
 今年度で全数近接目視点検の一巡目が終了する、もうすでにトリアージの時期は過ぎ去ったと、私は考えている。次の段階に移りたい。

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