道路構造物ジャーナルNET

他社製品もサンプリング調査へ

国道24号勧進橋の落橋防止装置などの溶け込み溶接部不良問題

公開日:2015.09.24

【関連記事】落橋防止装置の溶接不良 45都道府県556橋に拡大

 国土交通省は、国道24号勧進橋の落橋防止装置などの溶け込み溶接部において、不良が確認されたことを踏まえて、各地方整備局など及び高速道路会社は、過去5年間の耐震補強・補修工事の中で久富産業の溶け込み溶接製品を使用した橋梁の特定作業を行ってきた。現時点で、久富産業製の落橋防止装置を使用していることが判明した橋梁は直轄管理で72橋、高速会社管理で20橋の合計92橋に達している。また、自治体他では、17府県、35市町村およびJR西日本、水資源機構、JRAなどで久富産業製落橋防止装置または北陸溶接検査事務所が関わった落橋防止装置があることが確認されている(数量は不明)。これらの橋梁については、溶け込み溶接部の健全性を検査するとともに、不良が判明した部材については補修を行うよう手続きを進めていく方針だ。




国道24号勧進橋の落橋防止装置などの溶け込み溶接部において、不良が確認された

久富産業(株)の溶け込み溶接の製品を使用した過去5年間の橋梁リスト(国土交通省記者発表資料より)

他社製品もサンプリング調査実施へ

 久富産業は、完全溶け込み溶接の際、開先先端部の裏はつりを行って不良部を除去し、再度溶接を行うという工程を怠り、なおかつ北陸溶接検査事務所の職員が過去5年にわたりそうした不良データの隠ぺいを行ってきた可能性がある。これが、京都市への匿名の告発電話により発覚、京都市から京都国道事務所すなわち国交省に連絡されると同時に、元請のショーボンド建設からの報告もあり、今日の事態となった。一方で両者が関わった製品は、ショーボンド建設の元請現場だけでなく複数の元請会社に納められていることが分かっている。
 ここで関係者の脳裏に浮かぶのが10年以上前の落橋防止装置アンカーボルトの定着長不足事件である。同事件も同様に匿名の告発電話によって発覚、当初は特定の1社による不正と思われていたが点検すると、少なくない数の会社が関わっていたことが分かり、処分を受けると同時に、工期の見直しや非破壊点検方法の見直し、革新につながったことは記憶に新しい。
 国土交通省では、「過去5年という言葉を鵜呑みにせず、さらに過去に遡ってサンプリング調査を行うとともに、他社の溶け込み溶接を用いた落橋防止装置についても同様にサンプリング調査を行って健全性を確認していく」としている。また、今後も関係会社にヒアリングなどを実施するなど原因究明と再発防止に取り組んでいく方針だ。

4%の怪――しかし常駐技術者にとっては100%
 適切なコンプライアンスとは何か  

 北陸溶接検査事務所は、8日に同社ホームページ上で「勧進橋補修・補強工事にかかる溶接不良の発見について」というリリースを発行している。骨子は①勧進橋で発覚した溶接不良箇所58箇所のうち57箇所は同社が抜き取り検査した後に久富産業が製造した製品であり、傷が見つかった箇所も溶接の手抜きではない、②しかし、同社側もランダム件数は納品全数の10%であるところを、担当職員は検査時に製造が終わっていた製品(全数の10~30%)を対象に10%を抜き取ったため、適正な検査がなされていなかった、③溶接不良は5年ないし3年前から始まっていたが、久富産業から立会検査終了後の不良の告知を求められそれに従っていた、④そうした指示に対し同社にほぼ常駐していた当該職員は大切な顧客であるという認識から迎合していた、⑤売上割合は4%程度でしかなく、会社としては切ることに支障はなかった――というものだ。
 ここで疑問は4%の売上しかない顧客に対して、担当職員はなぜ迎合したのかということである。現時点では久富産業から担当職員に対する利益の供与は職員自身が認めていないとしている。それが真実であるなら、もう1つは北陸溶接検査事務所自身が認めるコンプライアンスの不備であろう。1社に付き同じ担当職員が変わらず検査すれば慣れ合いの構図が生まれるのは自明だ。また、(職員にとって第2の本社ともいうべき)担当会社が切られた場合、責任の所在、当該職員の配置転換の仕方はどうだったのか。ここも徹底究明する必要があるだろう。ことは北陸溶接検査事務所だけの問題ではない。業界全体の課題である。

【関連記事】
92橋中72橋で不良が見つかる
これでよいのか専門技術者 -分かってますか?何が問題なのか- ⑥溶接構造の品質保証について

お問い合わせ
当サイト・弊社に関するお問い合わせ、
また更新メール登録会員のお申し込みも下記フォームよりお願い致します
お問い合わせフォーム