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技術開発、働き方改革を積極的に進め、より魅力ある会社に

阪神高速技術 立石新社長インタビュー

阪神高速技術株式会社
代表取締役社長

立石 泰三

公開日:2020.10.26

4つの視点でお客さま満足指標を導入
 安全・安心、工事の低騒音化、工事中及び移動中の交通事故ゼロ

 ――中長期的な経営目標について
 立石 第4期中期経営計画は今年度が最終年度となります。本計画の特徴は、お客さま満足について具体的な指標を掲げて取り組んでいることです。
 最初にお客さまの安全、安心に影響が出ないよう損傷には全社で迅速に対応することです。
 2つ目は高速道路上の補修工事に当っては、交通量の少ない夜間工事にシフトしようということで、低騒音工法を積極的に活用しています。阪神高速道路を走行するお客さまへの影響を極力小さくしようということです。
 3つ目はポットホールなどの緊急に処置しなくてはならない損傷の発生を抑止したいと考えています。最後は工事中の事故や移動中の交通事故ゼロを目指します。
 概ね順調に進んでいますが、初めて指標化しましたので、指標そのものをブラッシュアップし、必要であれば新たな指標を追加していくことが必要です。

一歩進んだ技術の確立を目指す
 日本の高速道路関連会社で初めてISO55001を取得

 ――来年度からの第5期中期経営計画について
 立石 これまでの成果を踏まえて施策を強化していきます。
 1つは、一歩進んだ技術の確立です。当社の経営方針の一番目に、「一歩進んだ品質・技術を目指し、それを継承していきます。」という言葉がありますが、会社ができた時から一歩進んだ技術ということに初代の中島社長も意を砕くところがあったと考えています。我々もその考えを継いで、取り組んでいきたいと思います。
 阪神高速には、膨大な量の構造物や施設があります。しかも老朽化が進んでいます。そうした状況に対応していくために、昨年の12月にISO55001、アセットマネジメントシステムの認証を取得しました。高速道路の実務に関わる会社としては、日本では初めてのことです。この会社は点検・診断・補修を一貫して行うということが強みですが、点検や補修で得られたデータを予防保全や予知保全に生かし、一歩進んだアセットマネジメントを行っていきます。
 もう一つは多様な働き方です。既にテレワークや時差出勤は導入しています。社内の課題としては、現場の膨大な書類整理や報告資料があり、協議や打ち合わせの時間も長くなりがちで、技術者が現場に携わる時間をとることを妨げています。我々は維持管理の会社なので、現場が基本です。現場に出る時間をとるために業務のデジタル化や会議のリモート化を促進して、磨き上げられた現場感覚を持つ社員を育てていきたいと考えています。
 ――一歩進んだ技術の開発とおっしゃいましたが、どんな技術を開発しているのですか
 立石 アセットマネジメントシステムの充実、施設系の技術力強化などです。
 ――阪神高速道路本体ではHi-TeLus やCOSMOSなどを開発していますね
 立石 日常点検や定期点検で得た色々なデータを持っていますから、そうしたデータをもとにある程度損傷状況を見える化することなどに取り組みたいと考えています。
 ――アセットマネジメントシステムの認証を取得したということは、単に構造物の損傷だけでなく、路線の資産価値も含めたマネジメントを行おうとしているのですか
 立石 最終的には道路構造物だけでなくすべての施設で作らなくてはいけないと考えています。今は施設系の中では建築の分野でFM(ファシリティマネジメント)というものを行っています。ばらついて付く予算を平準化するために、どの施設を直すべきかを選定しています。施設と言っても機械や電機など多岐にわたりますから、そうしたものを包括できるシステムにしていきたいと考えています。土木は土木でシステムを構築中です。最終的には土木も施設も全て包含した、全体的なアセットマネジメントとして稼働させたいと思います。
 ――夜間工事へのシフトや、夜間施工に配慮した工法の開発について
 立石 阪神高速は都市部での夜間工事を強いられるため、騒音をできるだけ小さくする必要があります。既存でもジョイント撤去工法や舗装撤去工法などで、低騒音工法や、IH式舗装撤去工法などを採用していますが、もう一段階グレードを上げられないか、模索しています。例えば、IH式舗装撤去工法は鋼床版上に限られますが、RC床版上でもそうした工法が採用できないか、今後の技術開発を進めて行きたいと考えています。

予防保全だけでなく「予知保全」に取り組む
 規制作業にロボコーンを試験導入

 ――損傷の発生を抑制するとは、具体的にどのような工法を想定しているのですか? 実際は難しいと思いますが
 立石 ポットホールが一度発生すると、近くでまた同じような損傷が発生するということがあります。道路を走ってみたらわかりますが、湾岸線などではそうしたポットホールが多くなっています。こうした状況を改善するために予防保全的にひび割れが頻発している個所の1レーン規模の打ち換えを行い、さらには事前にポットホールができる前に予知保全することがお客さまのためになると考えています。
 ――工事中の事故ゼロについて
 立石 運転ミスなどで作業帯に突っ込んでくるような車があれば、出来るだけ早く作業員に知らせることができるような設備の導入に取り組んでいます。しかし本格運用には至っていません。他社が使用しているものも含めて導入できないかを検討していきたいと考えています。
 規制を張るのは、阪神高速では人力で行っています。ガードマンの高齢化もあり、人自体も集めるのに苦労しており、結構大変です。この秋からは、現場での危険を低減するため、機械でコーンを設置できる、ロボコーンを試験施工する予定です。

「技術開発戦略2020~翔け!みちもり君~」を策定
 RT3® Curve、みつけるくんK、ドクターパト®などを実装

 ――未来予想図2030の進捗について。また長期的な技術開発について
 立石 会社創立10周年を期に、当社の長期ビジョンを明らかにするため、「未来予想図2030~みちもり君25歳の姿~」を作成しました。将来の社員のありたい姿を描いたものです。
 親会社からも信頼される会社になってきたのではないかな、と思います。職種間の連携もかなり進んできています。
 技術開発については、昨年、「技術開発戦略2020~翔け!みちもり君~」を策定しました。当社の技術開発は現場の課題解決に資するものが基本です。現場と一体的に、スケジュール感をもって進めています。
 具体的な技術開発項目の一つとしてRT3® Curveがあります。路面のすべり抵抗を調査する車両で、2019年度からカーブ区間で調査を行っています。米国Halliday Technologies社がレース場の舗装のすべり抵抗性を調査するために開発した技術です。都市高速でも使用できるということでカスタマイズしたものですが、規制なしで調査できるため、早期に本格運用できるように、社内でもはっぱをかけているところです。

RT3® Curve

 ――2つ目は
 立石 「みつけるくんK」です。阪神高速道路と日本電測機及び当社で開発したものです。路面上で鋼床版の損傷位置を4つの渦流探傷センサーで特定できる非破壊検査技術です。1日1車線、1台体制で最大200m、2台体制だと最大600mの範囲で調査できます。足場や仮設備は不要であるため、鋼床版の点検を省力化できます。現在は2台で運用しています。


みつけるくんK

 ――3つ目は
 立石 ドクターパト®です。これは当社の技術開発のアイコンと言える存在なのですが、路上全域の計測だけでなく、一元化して多角的に診断できます。導入後10年たっています。そこで、2代目のドクターパト®を構築中です。これは、初代ドクターパト®から大きくグレードアップを図るため、路面画像のカラー化、舗装面のひび割れ自動解析、伸縮装置の段差測定、ナビビューの4K化、トンネル覆工コンクリートのひび割れ計測などが行えるようにし、高性能化しました。デビューは2021年春の予定です。

ドクターパト®

 ――4つ目は
 立石 フィンガージョイントの効率的な検査方法として、日本工業試験所と共同開発した、フェイズドアレイの超音波探傷法と開口合成法の2つを使って、腐食と亀裂の2つの損傷を一挙に図る手法を開発しました。これにより検査に要する時間が1レーンにつき90分程度必要だった調査時間を30分程度に短縮できます。昨年度から試験適用しています。

フィンガージョイントの効率的な検査方法を開発した

地震時の段差乗り越え装置「ダンパスデッキ」を開発
 照明柱アンカーボルトの自動画像診断システムを構築

 ――開発中の技術は
 立石 地震が発生した直後、ジョイント部に段差が発生することがままありますが、緊急車両の速やかな通行を確保するため、人力により2人で約6分という短時間組立可能で、長期間の運用ができる段差乗り越え装置『ダンパスデッキ』を宮地エンジニアリングと共同開発しました。4t程度の普通車への適用は確認できており、大型車でも対応できるよう実証試験中です。

ダンパスデッキ

 ――どれくらいの段差まで対応可能ですか
 立石 20~30cmの段差に対応可能です。
 ――人力組立可能とありますが、どのような素材を使っているのですか
 立石 鋼製フレームに渡し板として軽量なFRP板を載せた構造です。重量も1部材で約20kgと軽量です。
 ――他には
 立石 照明柱のアンカーボルトの診断システムがあります。従来は超音波探傷を用いて点検するわけですが、取得した画像判定に非破壊検査の専門的な知識が必要です。そのため画像を自動評価できるプログラムを構築しています。これができると施設点検員でも容易に判断することが可能になります。

デジタル化とリモートワークで社員の負担を減らす
 育児・介護が必要な社員に配慮した働き方改革を実践

 ――人材の確保、育成、アフターコロナの働き方改革について
 立石 新卒採用は関西圏の大学、高専を中心に募集をかけています。インターンシップ、説明会を中心に展開しており、特に若手社員がリクルーターとして積極的に採用に関与し、学生に対して、身近な先輩としてアドバイスしています。学校との連携も深めており、具体的には神戸市立工業高等専門学校と人的交流や共同での調査・研究を行う協定を結びました。
 キャリア採用は、ワークライフバランスを重視する方が応募するケースが増えています。当社は転勤がないため、地元で働きたいという方が多く、そうした方への魅力になっているようです。キャリアの方は高い専門性を有していますし、様々な業務経験を有しておられますので、即戦力として期待しています。
 実際の採用の現場は端的に言って厳しいです。異業種や同業他社との競合で当社を選んでもらうためにも技術的な挑戦や働き方改革を推し進めることで魅力的な会社にしなければいかんと思っています。中でも厳しいのは施設系です。高速道路会社の施設系はそもそも何をしているのかが分からないという人もいます。そのためにもリクルーターの力が重要になっています。
 また、入社後もキャリアアップのため、資格取得の際の金銭的バックアップや取得後の資格手当などによるフォローはきちんと行っています。

各種研修も充実

 さらにある程度の年齢になれば、例えば一級土木施工管理技士の資格を必ず取得させるといったことを、会社のシステムとして導入していきたいと考えています。
 また、2018年に社内に保全技術研修室という部署を設けて、当社だけでなく阪神高速道路グループ全体の保全技術の研修が行えるような場を作っています。阪神高速道路の過去の補修データをもとに、阪神高速道路に特化した研修を行っています。
 アフターコロナで最もクローズアップされているのは、リモートワークだと思います。それも含めた働き方改革について、当社では3年ぐらい前から議論が進んでいて、幾つかの施策を実施し試行を繰り返していくうちに制度も柔軟になっていきました。例えば就業時間の設定に関しては、社員の置かれた状態に応じてフレキシブルに対応しています。

リモートワークも進む

 会社の性格上、現場を切り離すことは絶対にできません。損傷やそれに対する補修補強は現場で行う以外にありませんから。しかし、報告書や資料の作成はどこでもできます。会社だけでなく自宅でも実施できます。会議や打ち合わせも多くをリモートで行うことが可能です。
 また、仕事が特定の部署、個人に偏らない様な業務の平準化にも努めていきます。

 ――最後に構造物を保全する会社として、新たに入ってくる、新設を知らない社員に対して「全体最適」の眼をどのように養わせますか
 立石 阪神高速道路との人事交流を行い、社員には建設の現場に行ってもらっています。最近では、大和川線のトンネル建設現場に出向してもらった社員もいました。ここで建設=全体を見る眼も養えていると思っています。施設系ではグループ会社に行って、取替えや点検を経験してもらっています。当社の対象範囲は限られていますから、人事交流によりそれを越えて勉強してもらうことが大事です。
 ――ありがとうございました
(2020年10月26日掲載)

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