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大幅な軽量化により橋梁全体のコストを3~7%縮減

東大・首都高 軽量骨材と膨張材を使った高耐久床版の開発

東京大学
生産技術研究所
所長 教授

岸 利治

公開日:2020.07.29

「松」 鉄筋で膨張力をしっかりと拘束
 鉄筋をせん断補強筋的に縦配置

 ――次に「松」のコンセプト及び開発状況は
 岸 積極的にケミカルプレストレスを導入するため、標準混和量の1.5倍の30~45kg/m3使いにしたのが松のコンセプトです。ここまで膨張力を高めると、鉄筋が適切に配置されていなければ膨張材の膨張力がコンクリートを内部から破壊する方向のモードになるためしっかりと拘束する必要が出てきます。

 床版は平面的には鉄筋が入っているのですが、縦方向(床版厚さ方向)の鉄筋が無いので、1.5倍の膨張材を入れると縦方向の拘束力が足りなくなります。昔の床版は薄く、上筋と下筋に挟まれた鉄筋の影響を受けにくい(近傍5㎝の外部)部分は少なかったですが、床版厚が厚くなるにしたがって、その厚さも増加しています。この部分の膨張圧を拘束するためにプレキャストでは鉄筋をせん断補強筋的に縦配置(鉄筋比で0.1%)します。そうすると膨張圧を適切に拘束でき床版厚も現行の250mmから220mmに薄くしても、耐疲労性はRC床版と同等以上となります。これはPC床版とほぼ同等と言えます。


松の縦筋配置

 田嶋 実は北線の現場でも現場打設ながら縦筋を配置しています。これは、首都高でも改良型軽量床版の最初の施工ということもあり、膨張材量を低添加タイプで標準混和量の5割増しの30kg/㎥にした上で、床版厚さ方向の膨張圧対策として用心のため縦筋を配置したものです。耐久性は縦筋を入れないタイプと比べて向上したと思いますが、施工性は少し手間がかかりますし、現場施工ではかぶりの適正な確保という課題もありますのでなるべく配置したくはないと考えています。
 ちなみに、先ほど話したCARTにおいて松’のもう一つの研究目的が、この膨張圧対策に関するものです。すなわち現場施工を考えると従来通り縦筋を配置しない方がいいのですが、床版厚さ方向の膨張圧をコントロールする必要があります。そこで、膨張特性試験等を行い、3方向の膨張圧を計測し、厚さ方向に過大な膨張圧が入ることなく、床版水平2方向には適度なケミカルプレストレスが入る膨張材の混和量を見つけたわけです。これが先ほど説明した低添加タイプで今までひび割れ防止程度の標準混和量といわれた20kg/m3です。耐久性に関しても輪荷重走行試験を行い北線で施工した床版と同等程度の耐久性があることを確認しています。これにより現場汎用性上級床版の松’は縦筋を配置することなく施工できることとなりました。

自己治癒性が期待できるコンクリート

 岸 松’も水結合材比は37%とだいぶ低いですが、松に使うものは水結合材比をさらに下げて、25%相当にしています。これは明らかに高強度コンクリートであり、高流動コンクリートにも対応するものです。なぜそこまで下げたかというと、自己治癒性が期待できるからです。25%まで水比を下げますと、未反応のセメント粒子が中にたくさん残ります。床版の損傷は擦り磨きによってこすられてひび割れが入って進行していきます。そこに水が来るとさらに進行が早まりますが、自己治癒コンクリートは水が入ると逆に反応して補修してくれるのです。これは松の大きな特徴です。


 そこまで水比を下げるとコンクリートが自己乾燥するので、細骨材にプレウエッティング(事前吸水)された標準品を使用しても耐凍害性が確保できます。
 CARTでは委員の方に、全国展開をするのであれば耐凍害性も付与してもらいたいと言われました。軽量骨材を使用したコンクリートは耐凍害性に弱いと言われています。そのためプレウエッティングされている骨材をわざわざ乾燥状態にして凍結膨張を防がねばなりません。ポーラスな軽量骨材の中で水が凍結膨張されたらひとたまりもないためです。先行する軽量骨材を用いたプレキャスト床版は、骨材を予めドライにしておくことによって、耐凍害性を付与しています。しかし、粗骨材はドライが標準品として出荷されていますが細骨材はウェットしかなくドライは特注品になってしまいます。
 その点、松はW/Bが25%であり、コンクリート内部は自己乾燥しているので、コンクリート側が細骨材の水を吸い出してくれるのです。したがって、ドライの細骨材を特注する必要はなく、自動的に耐凍害性を付与できます。
 ――曲面や斜角にもプレキャストとして対応できますか
 田嶋 対応可能です。膨張効果により3次元のプレストレスが導入されるため、例えばPC配置や緊張方向の調整の必要はありません。
 ――松の継手については
 田嶋 CARTの研究の範囲内ではそこまでの研究を行っていません。今後実装の局面になれば具体的な検討を進めて行きたいと考えていますが、基本的にはプレキャスト床版で使用されている標準的な継手は用いることができると考えております。

コスト縮減 橋梁全体を松’で3%、松で7%の縮減可能
 CARTでも「優秀開発技術賞」として表彰

 ――コスト試算は
 田嶋 材料そのものはRC床版の3倍程度になります。しかし、重量を大幅に低減できることから、基礎、下部工や桁など橋梁全体の負担を軽減でき、橋梁全体のトータルコストは松’で3%、松で7%の縮減効果を発揮します。RC床版の取替の際も、桁補強をすることなく取り替えることが可能です。旧道示(昭和48年以前)では床版厚は薄く、現在の基準で対応しようとするとどうしても厚く重くなってしまいます。軽量床版の使用はその点でもメリットがあります。合成桁の床版取替についても桁や下部工以下を補強することなく取り替えられる可能性が高まります。

 ――首都高以外の高速道路や国・自治体への展開について
 田嶋 まずは知ってもらいたいと考えています。そのためにもNETIS登録は進めて行きます。CARTでも「優秀開発技術賞」として表彰され研究成果については国交省から公表されていますので、これもPRになっています。またコスト縮減に資する新技術としての展開を図るために、橋梁形式の選定段階で比較案に上がるよう、橋梁設計エンジニア(事業者、建設コンサルタンツ協会)にPRしていきたいと考えています。
 岸 中国など海外にも適用を働き掛けていきます。
 ――ありがとうございました
(2020年7月29日掲載)

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