道路構造物ジャーナルNET

大規模更新が全体の半分弱まで伸長

PC建協 大野新会長インタビュー「3つの挑戦を着実に推進」

プレストレスト・コンクリート建設業協会
会長

大野 達也

公開日:2020.06.08

補修・補強工事の性格ごとに設計者と施工者の役割を棲み分け
 R-1方式とR-2方式を建コン協と共同提案

 ――大規模更新事業に関して、設計工事共同企業体の試行導入をNEXCO中日本が決めたが、それへの対応や建設コンサルタンツ協会との話し合いは
 大野 大規模更新関係の設計については、各社も大変な状況にあるとの認識は有しています。但し、このことで建設コンサルタンツ協会と個別に話し合っているということはありません。
 建設コンサルタンツ協会とは、設計者と施工者がそれぞれの強みを生かして効率的に補修・補強工事にあたるべく、両者が連携した契約方式の共同検討を行っています。R-1方式、R-2方式というのがそれで(Rはリペアの略)、R-1方式は設計者が工事段階まで関与する方式です。R-2方式は、施工者が設計段階に関与する方式です。これはいわゆるECI方式です。大規模更新工事や高度な施工技術を必要とする工事、特殊な橋梁形式の補修・補強では、施工者の知見を設計に活かすR-2方式がよいと考えております。一方で、内部のPC鋼材や鉄筋の腐食対策であるとか、あるいは繊維シートを張り付ける補強、グラウトの再充填など、設計段階で不明確な要素がたくさんある工事に関してはR-1方式が適当です。この方式は大掛かりな設計変更がある場合、きわめて有効です。


グラウト再充填などはR-1方式が適当

 設計者と施工者が連携するこの2つの契約方式について、建設コンサルタンツ協会、PC建協共同で、国交省に採用いただくよう、働きかけているところです。
 ――協会活動の重点テーマとして、年度工事量の安定的な確保を掲げているが、今後の事業展開については
 大野 今年度の協会は、新ビジョン2017に掲げる4つの柱(①市場対話②技術支援③生産支援④社会への働きかけ)に基づいて、本部と支部が連携して協会活動を推進していきます。これらの活動を進めていくにあたって、新型コロナウイルス感染拡大の防止はもちろんのこと、これに起因するあらゆる影響に対して適切に対応していきたいと考えています。
 市場対話では、各発注機関との意見交換会を行い、協会活動をPRするとともに週休2日の実現や生産性向上に向けてなど、さまざまな提案を行います。
 技術支援では、計画から維持管理までPCが適切に活用されるように発注者・設計者等への技術支援に努めていきます。具体的には、PC技術相談窓口の体制強化や各種技術資料マニュアルの整備、橋梁管理システムの充実、講習会の開催、講師派遣など、で大いに発注者、設計者を支援していきます。それにより、PCの適切な発注をしていただき、インフラの整備に貢献していきたい、と考えております。
 生産支援では、安全性・品質・生産性の向上に資する協会パトロールやマニュアルの整備など、主に会員企業の工事の品質や安全性が確保されるよう努めます。
 社会への働きかけでは、社会資本整備の重要性の理解が浸透するように、またPC構造物や工事の魅力が伝わるように、現場見学会、大学・高専への講師派遣、災害支援活動を行っていきます。

コンポ橋やUコンポ橋などプレキャスト形式を提案
 遠隔立会やリモート会議など受発注者が享受できる効率化を提案

 ――市場対話で週休2日、生産性向上という話が出ましたが、働き方改革を実現するためには生産性の向上が不可欠です。協会活動として取り組む部分と会員個社に対応を促していく部分があるが、それらについてどのように考えていますか
 大野 PC建協は、プレキャスト技術とICTの活用を二本柱としたi-Bridgeという協会独自の生産性向上施策を掲げています。本年の意見交換会でも、鋼桁上の床版構造としてのプレキャスト床版の採用拡大、設計要領へのUコンポ橋の掲載、新技術導入促進(Ⅱ)型工事の発注、CIM活用の促進などを提案していくとともに、Uコンポ橋のJIS化を目指し、標準化の検討を進めていきます。


Uコンポ橋

 一方、会員個社は、生産性向上のために、工場や架設機械、情報通信機器に設備投資を行い、また材料、構造、工法の技術開発や、大学・他業種との共同研究を行っているところです。PC建協では、こうした会員個社の設備投資や技術研究開発にインセンティブとなるような、プレキャスト化の推進、ECI方式や新技術導入促進型工事の採用拡大を発注者に働きかけていきます。
 ――週休2日制の導入など働き方改革自体については
 大野 2017年度に協会で「働き方改革に向けた基本方針」および「週休2日制実施におけるマスタープラン」を作っています。それに基づいてPC工事業協会と連携しながら建設現場における週休2日制を推進しています。個社や協会のこうした取組みと同時に、発注者との意見交換で、完全週休2日制が進んでいくような、また時間外労働時間も削減できるような提案をしていこうと考えています。提案内容はWebカメラ、ウェアラブルカメラを使った遠隔立会や遠隔検査、クラウドシステムや共通サーバーによって、リモート打ち合わせや会議などの実施、さらにはオンライン電子納品システムによる、竣工書類、作成業務の簡素化などです。これらは受注者側だけでなく発注者側にもメリットがあると考えます。
 ――遠隔立会など現場のリモート化は非常に有益だと思います。協会としては働き方改革提案だけでなくそれを標準化すべきでは
 大野 導入に際しては発注者側の同意が必要です。そのため発注者に対しては会員個社だけでなく協会全体として導入を働きかけていきたいと考えています。ただ、通信機器の進歩は日進月歩であり、提案している途中で良い製品が次々開発される状況ですので、個別内容に関しては選択肢を残しながら、導入手順だけ定めていくということが必要であり、それを協会として推し進めていきたいと考えています。
 遠隔立会は、他の工種よりも工場等を有するPC工事の方が効果的であると考えています。PC構造物の出来形や品質管理に関するICT技術も並行して進歩しているので、そうしたものも合わせて活用していくとより効率的な提案ができると考えています。
 ――現在、業界の主軸となる大規模更新事業は10~15年で完了する予定です。「その後」をどう見据えていますか
 大野 確かに現在行っている高速道路各社の大規模更新工事は減っていくかもしれませんが、高速道路だけでなく、国土交通省や自治体が所管する橋梁・高架の老朽化もあり、維持管理や橋梁更新の工事はなくなることはありません。


代表的新設橋の1つ、吉野川大橋(NEXCO西日本四国支社)

 現在、補修・補強分野が右肩上がりで増えているのに対して、新設事業は一定量を確保できているものの、年度ごとや地域によっての変動があります。地域高規格道路や自動車専用道路の4車線化事業など、地域ごとに年度工事量を安定的に確保していただくよう提案しております。PCの専門工事業者は特殊技能を有しているわけですが、こうした適切な技能者を地域ごと確保するためには一定の工事量が必要ですし、また災害が生じた時に機動的に対応するため会員企業が地域拠点を構えておけるだけの発注量も必要です。事業の推移から多少の年度ごとのばらつきがあるのは致し方ありませんが、そうした状況でも先を見通せるように中長期のプロジェクトの計画や進捗を示していただくよう要請しており、国交省他にご対応いただいております。中長期のプロジェクトを明らかにすることによって、地域で活躍する若い技術者・技能者にモチベーションを持たせることが可能となります。




各地で起こる災害に対応する力を維持するためにも適切な発注量が必要だ

 ――趣味は
 大野 読書と音楽鑑賞です。読書は大江健三郎や高橋和巳などを好んで読みます。今は、コロナのこともあり、カミュの『ペスト』を読んでいます。
 座右の銘は「Go straight,No chaser」です。由来はスタンダードジャズのナンバー(編注:『straight,No chaser』Music by Thelonious Monk シンバル(あるいはドラム)から入るかなり独特なナンバー)で、直訳は「ストレートで飲む、チェイサーはいらない」という酒豪を扱ったテーマですが、これを中国文学者がかっこよく和訳したのをみつけ、私はさらにこれにGoを付けて「追随者なき独自の道を歩む」と訳し、日々自らを叱咤激励しています。
 ――ありがとうございました
(2020年6月8日掲載)

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