道路構造物ジャーナルNET

“気ままな”活動を通してインフラを身近なものに

しゅうニャン橋守隊 今井努発起人インタビュー

しゅうニャン橋守隊
発起人
(所属:周南市役所 建設部 道路課 橋りょう長寿命化推進室)

今井 努

公開日:2020.05.16

橋守活動は41橋を対象に21回実施、補修体験も取り入れる
 活動には1歳から69歳までの幅広い年齢層が参加

 ――主な活動内容について教えてください
 今井 一般的な橋守活動と、子供や一般の方々への啓発活動を行っています。橋守活動は2015年8月の第1回から市や県管理の橋から管理者不明の橋まで41橋を対象に21回実施してきました(2020年4月末現在)。1年前に土砂詰まりを解消した排水装置の1年後の状況を見て、改めて綺麗にしてもらうなど、きめ細やかなメンテンナスの重要性を理解してもらう活動も行っています。


(左)清掃美化活動の実績/(右)主な啓発活動実績

清掃活動/(右)子供が大学の先生と一緒に伸縮装置裏を点検

土砂詰まりを解消した直後の排水装置(左)とその1年後の土砂詰まり状況(子供たちで清掃する様子)(右)

 参加者に歩道橋の根巻きコンクリートのひび割れを見つけてもらった時は、後日、内側の詳細調査を行って補修しましたが、普通高校の生徒達が追跡調査として立ち会ってくれました。その成果を土木学会の研究発表会でパネル展示し、生徒の一人は大学進学にあたり土木を専攻しています。生徒達が「高校生の私たちでもできることがある。一人一人が現在の橋の状況に目を背けることなく、橋の状況に関心をもつことが何よりのメンテナンスである」と自分たちの言葉で言ってくれたことが非常に嬉しかったです。


橋守活動中に見つけた損傷箇所を補修する

追跡調査の成果を「保全活動から分かる橋の劣化に関する研究」として発表

 活動を始めてから数回経った頃に、建設コンサルタンツ協会近畿支部のある研究委員会からヒアリングを受けました。その時に、「子供が多く参加しているので、次世代にメンテンナンスの大切さを伝えることも良いことだ」とコメントをいただきました。私自身、構造物の延命化への思いが強く、そこを中心に考えていたのですが、次世代に伝えることは非常に有意義なことだと思い、それ以降、活動に子供向けの簡易補修体験も取り入れています。
 具体的には、舗装のポットホール解消や被り不足による鉄筋露出が発生している箇所を断面修復したり、鉄筋探査などの非破壊検査体験や塗装体験を行ったりしています。“楽しみながら”活動することが重要で、楽しい記憶は自然と心に残ります。また、日本大学の岩城一郎教授の研究室に当時在籍していた学生が考案した橋梁点検チェックシートを使わせていただき、路面点検を実施することもあります。その学生が周南まで足を運んでくださり、一緒に活動してくれたのも良い思い出です。


断面修復や超音波板厚計測、鉄筋探査などを体験

 このような体験を通して補修を行う意義が伝わりますし、自分達が補修した箇所を後日、見に行って経過観察するなど、子供達にもインフラが身近になります。
 子供や一般の方々への啓発活動は、商店街主催の小学生向け職業体験イベントなどに参加したり、「しゅうニャン橋守隊気まぐれ勉強会」と名付けて専門の講師の方を招いて勉強会を開催したりしています。
 職業体験イベントでは、子供達の憧れの仕事になると良いと考えて、橋梁点検車を一般的に(?)子供が憧れる消防車やパトカーなどと一緒に並べたり、石橋アーチを造る体験やレオナルド・ダ・ヴィンチが釘なしで造った橋の模型展示、コンクリートの打音点検体験なども行っています。このイベントは年に1回ですが、そのほかにも小学校3~6年生を対象として土木について学ぶ座学とセットで新聞紙を使ったトラス橋、ダンボールや牛乳パックを使った鈑桁を造るイベントを実施しました。


橋梁点検車のバケットへの搭乗体験/石橋アーチを造る体験

ダ・ヴィンチ橋の模型を使ったブランコ/コンクリートの打音点検体験

トラス構造を学ぶ座学やダンボールでの鈑桁橋製作

 また、山口県に協力してもらい見学会なども開催しています。周南市の象徴的な橋梁である周南大橋(橋長1,045m)での橋守活動や、施工中のダム工事現場見学、在来工法で掘削している水路トンネル見学などです。


橋梁だけでなく、土木全般にも興味を持ってもらうために、ダムや水路トンネルなどの見学も

 周南大橋は臨港道路として物流を支える道路に架かる橋であるため、普段は徒歩で利用する機会はほとんどありません。そこを橋の造り方や架け方を説明した後に、ウォーキングしながら清掃しました。目的は橋守活動ですので、草が生えているけど、そこには排水桝があるから綺麗にしようという感じで、イベントの中で維持管理のポイントを知ってもらうようにしました。また、本橋を設計した会社の方も参加していたので、損傷箇所を専門家目線で見て、一般の方に理解してもらえるような言葉で伝える工夫もしました。設計会社の方にとっても経年変化を知る貴重な機会になったとのことでした。


周南大橋を歩きながら清掃活動。排水桝に溜まった土塊を取り出す(右)

 昨年12月には、山口県コンクリート診断士会と共催で「橋守サミット ~ねぇ、公響事業って知ってる?~」を開催しました。当日は、橋守塾の阿部允塾長(特定非営利活動法人 橋守支援センター)や首都高技術インフラドクター部の永田佳文部長、DEJIMA BASEの江口忠宏代表が参加してくださり、講演とパネルディスカッションを行ったほか、子供向けのイベントも同時開催し、一般の方を含めて約80人の方が参加しました。


昨年12月に開催された「橋守サミット」

 ――1回の橋守活動にする参加人数は
 今井 活動によりそれぞれですが30~40人、多い時には100人弱が参加する活動もありました。
 ――どのように告知をしているのですか
 今井 公の広報はしていません。SNSも活用しながら、約150人が登録しているメーリングリストで告知しています。参加できる人だけ返事を返してもらう形で案内することにより、ユルく募集しています。“楽しみながら”活動することがモットーなので、強制感が出て義務的に嫌々活動したくないですからね。
 ――参加者の年齢層は
 今井 実績として1歳から69歳までと幅広い年齢層になっています。
 ――参加者の感想にはどのようなものがありますか
 今井 活動開始から2年間、活動のブラッシュアップを目的にアンケートをとっていました。自由記述欄のコメントには、「橋自体を意識していなかったがその存在に気付いた」、「日々のメンテナンスの重要性とポイントが分かり、維持管理の印象が変わった」、「インフラに愛着を持った」などの感想が多かったです。橋守活動は専門家でなくても誰でもできるという感想も多く、他人事から自分達のこととして考えてくれるようになってきていると感じています。

土木関係者にとっても仕事を再認識する機会に
 淡々と地道に活動を継続、全国にも発信して仲間を増やしたい

 ――さまざまなイベント開催、また非破壊検査体験や橋梁点検車の展示などには行政や企業の協力が必要になると思います
 今井 基本的に活動に共感した人たちが手弁当で集まっていますので、大きな資金が必要な活動は難しいですが、徳山高専や地域のコンサルタント会社、建設会社、行政が活動に参加していることから、できる範囲で検査機器や必要な資機材の提供といった協力をいただいています。協力を要請するというよりは、「〇〇なら協力できるよ」や「活動の中で〇〇やってみませんか?」と主体的に提案いただけることもあります。
 ――活動のための予算はどうしているのですか
 今井 基本的には手弁当ですが、少額の助成金を活用する年もありました。子供たちが活動しやすいように、橋守活動に必要な道具や安全具を揃えることや持ち寄りしづらいものに充当するようにしています。たくさんの予算を持つよりは、ヘルメット1個買うのも悩むくらいの活動規模がちょうど良いと思っています。
 ――土木関係者が活動に参加する効果は
 今井 立場も世代も違う人達が、活動の中でインフラメンテナンスや将来の土木の話をしていること自体が刺激になっていると感じます。私も含めて、自分達の仕事を再認識してやりがいを見つけているとともに、みんなで楽しく活動することが精神的にもプラスになっていると思います。地域の人が道路や橋に愛着を持ってくれることが分かったから、私達も一生懸命みんなの財産を守らないといけないという気持ちです。
 ――最後に活動を通して感じていることと今後の方向性について教えてください
 今井 「橋守」の大切さは伝わっていると実感しています。職場では、定期点検が義務化された時は点検のみを行えば良いという雰囲気でしたが、時間の経過と共に補修とセットで考えるようになり、維持管理に対する意識も変わってきていると感じます。
 今後も淡々と地道に活動を継続していくことが重要です。私達のような活動は「いつでも・誰でも・簡単に」取り組める、言ってみれば猫パンチのような活動です。この活動で橋があと何年長持ちするとは言えませんが、その橋が寿命を全うしたとき、その数年分はこの活動による成果であると本気で考えています。
 インフラを財産にするのも負の遺産にするのも意識・覚悟と行動次第です。他人事から脱却して、当たり前を当たり前であり続けさせるために、インフラに愛着を持ち、スモールステップで良いので、できることを考え、行動しませんか? 同じ活動である必要はありません。この活動が小さなヒントとなり、各地で色々な形となってインフラを支える活動として広がり、特別に取り上げられることなく、当たり前の風景となる日までインフラを支える猫の手として活動していきたいと思っています。
 また、個人的には広報がとても重要であると考えています。次世代の子供たちに土木に興味を持ってもらい、職業としての選択肢になって欲しいと思っています。
 最後まで読んでいただいたみなさん、インフラをニャンとか次世代に繋ぐために、Shall we 猫パンチ?
――ありがとうございました
(2020年5月16日掲載 聞き手=大柴功治)


【しゅうニャン橋守隊​ホームページ】
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