道路構造物ジャーナルNET

ロッキングピア対策は今年度に概成

2020年新春インタビュー NEXCO中日本 大規模更新・長大橋耐震が進む

中日本高速道路株式会社
取締役常務執行役員
保全企画本部長

源島 良一

公開日:2020.01.01

 中日本高速道路は、東名、新東名、中央道、北陸道などといった、東西の大動脈を所管している。特に東名、名神、中央道は供用年次が古く、疲労、飛来塩分あるいは凍結防止剤による塩害、北陸道でも飛来塩分、凍結防止剤による塩害、骨材由来によるASR損傷など、様々な劣化が顕在化している。そうした状況に対し、大規模更新・大規模修繕によってどのように手当てしていくのかを聞いた。さらには熊本地震を受けて取り組むロッキングピアや長大・特殊橋などの耐震補強の進捗についても詳述していただいた。(井手迫瑞樹)

 ――今までの経歴から教えて下さい
 源島常務 昭和59年に旧日本道路公団(JH)に入社し、四国、本社(東京)、静岡建設局(新東名関連)などで高速道路の建設事業を主体にやってきました。
 ――専門分野は
 源島 JH時代は構造工事区といって橋梁の新設工事を専門的にやる部署があり、最初の配属先はそこでした。
 当時、四国の高知工事事務所の高知自動車道で山脈を越える箇所にある橋梁工事を担当し、その次は高松建設局で四国全体の構造物を見る構造技術課に配属されるなど、5年間は構造物主体でやってきました。
 その後は計画から予算、事業調整など幅広くやってきました。
 ――東京ではどのような業務に携わってきたのですか
 源島 本社の建設課に勤務し、国との調整なども含めて建設事業を担当していました。私の場合は名古屋建設局と東京建設局、新潟建設局を所掌する課にいました。
 その後、保全企画課長代理の時には、東京湾アクアラインを担当していました。開通した後の事業事後評価などを担当していました。計画畑に近いですよね。
 ――国土交通省にも出向された経験があると聞きましたが
 源島 1992~1995年にかけて九州地建(現、九州地整)の道路計画第一課に出向していました。
 ――どこで工事長をされていたのですか
 源島 新東名の建設事業を進めていた掛川工事事務所の金谷工事区です。1995年の11月から99年の7月までです。道路構造としてはトンネル、高架橋、土工と一通り揃っていました。事業が始まったばかりの時期であり、専ら設計協議や用地買収のお手伝いをしていました。用地にめどが立ち、工事着手した段階で異動になりました。
 ――所長のご経験は
 源島 民営化直前の2005年7月から丸2年間、静岡工事事務所で勤めました。
 ――印象に残っている現場は
 源島 新東名です。立ち上げからずっと携わっていましたので。中でも工事長として担当した新東名で一番長い粟ヶ岳トンネル(建設時は金谷トンネル(仮称))は思い入れがあります。トンネルボーリングマシーンを使って先進導孔して拡幅するという掘削方法を採用したトンネルでした。延長が長く、工程上もクリティカルでしたし、早く工事をスタートさせなくてはいけないということで、地元はかなり難しかったのですが、何度も足を運んで、何とか工事のスタートが切れたということが印象に残っています。
 ――地元との「飲み」も含めたコミュニケーションが大事と良く言われますが
 源島 ここでの「飲み」は、工事スタート時のお祝いのときだけでした。専ら説明会や個々の家へのお願いに足しげく通うことで、私自身を信頼していただくよう努めました。

供用年数 名神は50年超、東名も50年を迎える
 平均交通量は1日4万台、大型車も同1万2千台

 ――まず、中日本高速道路の道路網の現状と概要について述べてください
 源島 事業延長は2,132kmです。利用台数は198万台/日、料金収入は東西とほぼ同じくらいで6,934億円(2018年度実績)です。地域的には東京と大阪をつなぐ部分に建設された高速道路であるため、交通量は多く、平均的な交通量は約40,000台/日、大型車は平均約12,000台であり、東西の2倍近い値を示しています。東名、新東名、名神、新名神は日本全体の重要な物流の動脈であると自覚しています。


NEXCO中日本所管路線図(図、写真とも以降注釈無きはNEXCO中日本提供)

 特徴的には古い路線が多くなっています。例えば名神と東名は供用して50年以上が経っています。中央道、北陸道も約40年を経過していて、30年以上経過している路線は半分を超えています。東西会社と比べても経過年数は長く、交通量も多く、場所によっては塩害などもあり、構造物に与える影響は非常に厳しい状況といえます。


経年別路線数

 一方、わが社は2012年12月2日に笹子トンネル天井板崩落事故を引き起こし、9名もの尊い命を奪ってしまった当事者でもあります。二度とそうした事故を起こしてはならないという深い反省と強い決意のもと、構造物の維持管理に取り組むことが一番大事であると考えています。
 笹子トンネル事故の後に「安全性向上3カ年計画」を2013年から3年間重点的に対策しました。3カ年が経過した後も『チャレンジV』という中期経営計画の中で高速道路の安全性向上と機能強化にしっかり取り組むことを最上位に掲げて5つの取組み方針を続けています。「安全を最優先とする企業文化の醸成」、「道路構造物の経年劣化や潜在的リスクに対応した業務プロセスの継続的改善」、「安全活動の推進」「安全を支える人材の育成」、「安全性向上に向けた着実かつ効率的な事業の推進」です。

5,859橋の橋梁・高架を管理
 鋼橋、PC橋、RC橋が約3割ずつを占める

 ――管内の橋梁とトンネルの内訳は
 源島 当社は全部で5,859橋の橋梁・高架を管理しています。橋種別は鋼橋、PC橋、RC橋がそれぞれ約3割を占めます。橋梁延長比は鋼橋が多く45%に達します。橋梁連数別の経過年数では41~50年代が最も多く33%を占めます。橋梁延長別は10年以内が最も長く約300kmで、次いで11~20年と41~50年経過した橋梁が約200kmとなっています。

 ――路線別で50年以上経過している区間は東名・名神高速道路が圧倒的に多いですね
 源島 そうですね。中央道の調布IC~河口湖ICも50年以上経過しています。
 40年経過している区間は、中央道の西側部分と北陸道の富山IC~敦賀IC間、東名阪の一部などです。30年以上経過している区間は、北陸道の当社管理の残部、東名阪道の一部、長野道、中央道の一部などが該当します。30年以上経過している区間が非常に多いのです。


橋梁の構造種別割合(左:連数別、右:延長別)と経過年数

各路選別の橋梁数(構造種別)

 ――鋼種別では鋼橋、次いでRC橋が多いですね
 源島 建設当時は、長い支間の橋梁においてPC橋では対応し難く、必然的に鋼トラス橋などが多用されています。RCも古い路線において使われています。ただし、近年においては技術向上によってPCの適用スパンが長支間化したこともあり、PC橋の割合が増えています。
 ――部材が現在と比較すると細いので、塗替えをきちんと行わないとすぐに構造的に痛むと感じました
 源島 大規模更新で一緒に塗替えができるものはなるべく行っていく予定です。

 全体で435本のトンネルを管理
 約3割が矢板工法を採用

 ――トンネルは
 源島 全体で435本を管理しています。古い路線が多いので28%が矢板工法となっています。NATMは80年代からで全面的に採用されています。とりわけ北陸道はNATM開始前の建設なので、ほとんど矢板工法となっています。中央道西宮線(大月~小牧)も矢板工法がほとんどを占めます。


トンネルの工種割合(右:施設数比、左・延長比較)と経過年数

各路線のトンネル数(工種別)

 ――トンネルは41年以上が15%で比較的新しいですね
 源島 昔は換気上の課題もあり、長大トンネルをなるべく避けていました。

橋梁は診断結果Ⅲが14%、Ⅱが80% トンネルは同Ⅲが25%
 供用後30年過ぎるとⅢ判定が増加する傾向

 ――構造物の点検実施状況は
 源島 平成26年度から5カ年での構造物点検を行っており、一巡目の点検は完了しています。
 ――点検を進めてみての損傷状況は
 源島 健全度Ⅳ判定はなく、健全度Ⅲは全体で11%でした。また同Ⅱは70%でした。
 構造物種類別では、健全度Ⅲは橋梁が14%、トンネルが25%、シェッドが27%、大型カルバートが6%、門型標識等が2%です。Ⅱは橋梁が80%、トンネルが69%、シェッドが45%、大型カルバートが79%、歩道橋が83%、門型標識などが26%となっています。

 診断結果Ⅲは、「構造物の機能に支障が生じる可能性があり、早期に措置を講ずべき状態」とされているものですので、これについて優先して対応します。
 ――Ⅲ判定だけでなく、Ⅱ判定の多さをどうみますか
 源島 傾向的に30年過ぎるとⅢが増えていく傾向にあります。全部が全部Ⅲに代わるわけではないですが、注視が必要です。

 ――その要因は
 源島 施工時の要因もありますが、年数を経ての経年劣化や大型車の繰り返し荷重による疲労の進捗、飛来塩分や凍結防止剤に含まれる塩分の浸透などが推察されます。
橋梁におけるⅢ判定は床版や劣化して水が回りやすい橋梁の端部などで、多く生じています。一方で大型車の繰り返し疲労によって鋼部材の疲労亀裂が顕在化している箇所も生じています。
 ――トンネルは供用後31年を超えてからの損傷が顕著ですね
 源島 NATMが本格化したのが約35年前ですから、その前に在来矢板工法で施工したトンネルの損傷が多いといえます。

 ――橋梁について、疲労の影響は
 源島 基本的には大型車の軸重繰り返しの影響は大きかったと思います。ダメージの大きさは重量の3乗に比例します。とりわけ大型車取締台数の11~15%が総重量を超過している違反車両となっています。点数制度で違反が増えれば割引停止を行い、これまでは検問所やIC入口で計測していた取締について、本線での自動計測を始めるなど、重量違反車両対策を強化しているところです。
 軸重の累積路線図を見ると傾向は顕著です。少し古い図ですが、平成23年度時点で東名、名神、東名阪、中央道の一部がすでに累積10t換算軸重3,000万軸を超えています。10年後には伊勢湾岸道、中央道の一部が新たに累積10t換算軸重3,000万軸を超えます。

 これに伴い、RC床版の疲労損傷や鋼部材の疲労亀裂も顕在化しています。
 ――損傷が見つかった構造物の補修進捗状況は
 源島 維持修繕計画を策定しており、それに基づいてⅢ判定については次の定期点検、つまり5年以内に対応できるよう補修を進めています。一番懸念しているのは、資金的な問題というより、人手不足による入札の不調不落です。
 ――不調不落対策はどのように進めていこうとしていますか
 源島 今年の7月に不落不調の対策のために入札改善を実施しました。入札により参加しやすくするため、特定更新では長期間にわたる工事を基本契約として結び、その中からいくつかの橋梁を個別計画という形で、計画的にやっていただくという契約手法を用意しました。また、若手技術者も技術者として評価するようにしました。それでもある程度の不調不落が起きる可能性があるため、再入札の際は発注の中身を変えたり、手続きの省力化を図ったりしています。加えて、当社の入札案件を魅力的に感じていただくために受注者の皆様と積極的に情報交換し、その要望を踏まえて対応できるものは積極的に反映するようにしています。
 フレックス工期も試行的に取り入れています。設計に関して、工期について余裕を持つ形で長くとって、その間で終わるのであれば、どこから設計に着手してもいいですよ、というものです。
 ――実際の定量的な補修進捗状況は
 源島 各構造物のⅢ判定は、橋梁767橋、トンネル93チューブ、道路附属物等91箇所であり、今年度末までに橋梁238橋、トンネル62チューブ、道路附属物等49箇所の対策を完了させる見込みです(下表)



中央道辰野トンネルの補修/安房トンネル(本坑)のひび割れ補修(左:井手迫瑞樹撮影)

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