道路構造物ジャーナルNET

見たくないものも見る 土研 西川和廣理事長インタビュー

2020年新春インタビュー 平成の橋を回顧し、令和時代に診断AIを目指す

国立研究開発法人土木研究所
理事長

西川 和廣

公開日:2020.01.01

2019年度末までにRC床版診断AIのプロトタイプを発表
 診断するだけでなくNETIS登録工法・材料のネガティブチェックも

 ――とりあえずの中間発表などは考えておいでですか
 西川 2019年度末までにRC床版診断AIのプロトタイプを世に出すよう発破をかけています。最初は出来が悪くて強い批判を浴びるのは分かり切っていますが、ただ原型を作ればそこから改良ができます。並行して下部工、鋼桁、コンクリートの塩害など部位および損傷ごとに診断AIを作っていきたいと考えています。
 この中では、診断セットという言葉を定義しています。損傷のメカニズム、点検、診断、措置の一連の手順を示す言葉です。

 損傷のメカニズムに加えて、どんな点検をどの段階ですれば、何がわかるか? 点検結果をどう判断して補修方法をどう仕分けるか(=診断)。診断を受けての補修補強方法の選定(措置)です。確度がある程度まで上がれば、NETIS登録工法の適用条件や効果についてもチェックできるようにしていきたいと考えています。
 ――NETISに関してもネガティブチェックするんですね。それは良いことですね
 西川 そうです。良い材料や工法はできるだけ技術審査証明に持っていきたいんです。NETISは安全に早く、安くできるのは証明できますが、耐久性や耐震性は証明できません。 
 診断セットは、48ある損傷ごとに全部作れと指示しています。
 もっと詳しく言うと、点検で見つかった変状から考えられる損傷をすべて列挙し、橋梁の建設時の示方書、損傷部位、交通量、カルテの補修履歴(カルテ、台帳、点検結果)を比較してあり得ない損傷をどんどん消していき、残った1つの可能性が診断結果になるようにしたいのです。1つに絞れない場合はAIが詳細調査を指示します。そこで得た診断結果は、プルダウンメニューによる定型文になるので、診断AIの教師データとして蓄積すれば、本来のAIとしての学習が実現できるようになります。そのための最初の一歩をエキスパートシステムとして踏み出すわけです。
 そうして得た診断結果を、視覚的に決め手となったわかりやすい写真や損傷メカニズムの図(紙芝居的なものが最適)と共に管理者に渡し、だからこの補修(措置)が必要かつ適切であると説明すればいい。AIでありながら診断結果の説明ができているわけです。これを一刻も早く実現したいのです。



診断セット

 ――ロジックを出力するわけですか、AIが。診断AIの基礎になるエキスパートシステムの教師データは膨大なものが必要になりますね
 西川 そう。すごく大変なことを始めたわけです。私の理事長任期中には完成しないと思うけれど、道筋は作りたいですね。また、膨大なデータの塊が出来上がるわけだけれど、それをアップデートする組織も作らなくてはなりません。更新のたびに誤診しやすいデータや点検の際に注意すべきデータもたまっていき、精度が上がっていくわけです。また、診断AIを使いながら点検や診断、措置を行うことで、技術の継承も図られるわけです。
 ――技術の継承も重要ですが、こうした事業をやりながら西川さんのような令和時代を担う指導者を作らなければいけないと思います
 西川 なかなか難しいですね、それは長大橋の建設もほとんどありませんし。だから悟ったんですよ。指導者を教育するよりAIで自分の複製を作ったほうが良いって。
 ――……うーん、さすがの自負心ですね
 西川 自分が一番と思わなければ、どだいこんなAIを作ろうとは思いません。例えば今日に至る橋梁の耐震基準だって、川島一彦先生(当時、土研~東工大教授、現在同名誉教授)の強烈なリーダーシップに拠るところが大きかったわけですから。オールジャパンで我こそは、と思う人が手を挙げてほしい。維持管理については、私の複製をAIとして残すので、参考にしてほしいと思います。
 本当は、橋梁研究室にいた神田(昌幸)さん山本(悟司)さんに期待したいところでしたが、みんな行政職で活躍しています。村越(潤)さんも大学教授に転出してしまった。土研に帰ってきてほしかったんだけど。こればかりはみなさんのキャリアもありますしね。後継者づくりが一番難しいです。

完成度の高い橋を造って欲しい
 殿町羽田空港連絡橋を機能美あふれた橋に

 ――最後に令和の時代の橋梁のイメージを提示してください
 西川 橋を造ってほしいですね。完成度の高い橋を造ってほしい。だってみんな橋を作ってないじゃない。桁を架けて、床版を打設して、舗装をして、排水設備もきちんと設ける。みんな構造には熱心だけど、細部に至るまで魂の籠った橋を作っていないじゃない。夏の橋シンポジウムでも言いましたが、鋼橋、PC橋とか構造種別は関係ない、「橋」を作ってほしいんです。外国人がうらやましがるような橋を造ってほしい。世界一長い、とか、高いとかそんなんじゃなく。また、うまい、安い、早い橋造りにもチャレンジして欲しい。今は安いと早いしかやってなくて、うまいが抜けています。
 ――確かにヨーロッパの橋梁などを見ていると、その時々の課題が反映されているように思えますね
 西川 そう、課題が伝わってきます。だから次代の技術者が次にやるべき技術的挑戦を明確に認識できるのです。
 ――日本ではなぜディテールの課題が伝わりにくいのでしょうか
 西川 何度も言うように構造は作っていますが、長く使うことのできる「橋」を造ろうとしていないからです。
 以前、伊藤學賞を戴いた時に、橋建協は「日本橋梁建設協会(にほんばしはりけんせつきょうかい)だ」と言いました。橋を最後まで作ってこそ、日本橋梁建設協会(にほんきょうりょうけんせつきょうかい)でしょう? ってことを言いたかったのです。
 ――腐食しにくい橋、疲労しにくい橋、使いやすい橋、完成度の高い橋、ですか
 西川 あらゆるところに気持ちが行き届いていることがわかる橋ですよ。目指すべき令和の橋は。
 ――単に意匠的な橋ではなく?
 西川 細部に魂を込めれば、自然に機能部にあふれた良い橋になりますよ。
 ――西川さん自身が携わった理想的な橋は
 西川 私はこれまで橋の形を決めたことがないから、何とも言えませんが、最近、初めて橋梁形式の選定から携わった橋として、多摩川をはさんで川崎市と羽田空港を結ぶ殿町羽田空港連絡橋があります。こここは形式選定だけでなくディテールにもこだわりました。本当は全溶接にしたかったのですが、時間が足りずにできなかったのは心残りです。配水管、照明柱なども認めていません。足場用の金具も認めず、上下部剛結構造で支承もありません。同橋は剛結にしないとたわみが大きくなって、高張力鋼を使えないというから、であれば剛結構造にすることを提案したら、高張力鋼が使えるようになって、鋼重が3割減りました。剛結構造にすれば地震にも強い橋になります。



先の台風の影響で上部工はまだ1ブロックしか架設されていなかった(井手迫瑞樹撮影)

 1つだけネックだったのは、環八が東京側を走っていてそれと直交することです。600mの橋と直交するわけで、これがそれぞれ揺れたら危なくなります。だから互いの縁を切る工夫を施しました。
 今後は、外国から来た人が、日本で初めて見る橋になるかもしれません。そこにセンスのある橋を建設したい一心でした。
 ――ありがとうございました
(2020年1月1日掲載)

ご広告掲載についてはこちら

お問い合わせ
当サイト・弊社に関するお問い合わせ、
また更新メール登録会員のお申し込みも下記フォームよりお願い致します
お問い合わせフォーム