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海峡部の耐震補強は2020年度末までの完了めざす

本四高速坂出管理センター 瀬戸大橋を含む約18kmを管理

本州四国連絡高速道路
坂出管理センター
所長

西谷 雅弘

公開日:2019.12.23

与島橋 3径間部でリブ補強
 孔明によって損傷が生じないように補強部は細心の注意

 ――岩黒島高架橋は
 西谷 同橋はRC橋脚で支えられたPC箱桁橋です。ここもアラミド繊維シートによる橋脚の巻き立て補強と、橋軸直角方向の変位制限装置による支承の補強を行いました。
 ――与島橋は
 西谷 与島橋は、2径間+3径間の鋼トラス形式の橋梁(⑨)です。3径間の部分(橋長588m)は、トラス橋としてのプロポーションが良く、比較的長周期の構造であるため、大規模地震時においても損傷が少ないという照査結果になりました。補強としては、RC橋脚の巻き立て補強と、トラス桁の損傷する部材については、T字型の補剛材を高力ボルトで取り付けるというリブ補強(⑩)を行いました。
 ――こういうリブ補強を行うと管理しにくくなると聞きますが
 西谷 しにくいというか、もともと点検する必要がなかったところを点検することが必要となり、手間がかかるようになります。当時、密閉されたトラス部材に孔明けしても良いのか?ということから議論されました。建設時に工場で溶接して製作され、そのまま密閉された状態のままですから、内部には水分や塩分の浸入はなく、したがって錆などは生じていないわけです。そこに一たび孔を開ければ、腐食を助長する物質が入ってしまう可能性を自ら作り出すことになります。このような箇所には、内部に乾燥材を入れて除湿した後、今回開けたマンホールやハンドホールを閉じたり、別途、小径の孔を開けてファイバースコープを使って内部を点検できるようにしたりして、施工を進めています。加えて、補剛材を取り付けた後、補剛材の周囲をシール処理したり、ボルト頭にキャップを付けたり、さらに、それらを塗装したりして、補強した部位(⑪)が管理上の弱点にならないように配慮しています。
 ――ボルトはワンサイドボルトという考え方はなかったのですか
 西谷 ワンサイドボルトを使用するとしても孔を明けるという行為は同じです。我々は、人が入れる大きさの断面のトラス部材の補強にあたっては、中に人が入り、目視しながら品質を確認し、施工したほうが良いと考えています。そのため、マンホールを開けて、そこから技術者が入って、内外から施工しています。
 ただ、断面のサイズが小さいトラス部材を補強する場合には、どうしようもありませんので、そこは、孔明し、外側からワンサイドボルトにより補剛材を取り付けています(⑩)
 ――こうした補剛材による補強では、リブの上面に塩分や水が溜まり腐食が助長されるケースも報告されています。その対策は
 西谷 承知しています。そのため、雨水などが滞留せず流れるように、補剛材を斜めに取り付けるなど、できるだけ下り勾配の傾斜をつけるように配慮しています。
 ――同橋の段差防止構造は
 西谷 この橋梁は支承が損傷しないという照査結果になっています。ただ想定外の地震力が作用し、支承が壊れた時に路面に段差を生じさせないようにするための構造(段差防止構造)も設置しました。

与島橋 2径間部 トラス桁と鋼床版の間のBP-B支承を交換
 さらにゴム支承を付け足す

 ――2径間部(⑫)
 西谷 櫃石島高架橋のトラス部と同じように、耐震性照査の結果、支承が損傷したり、鉄道のき電線を支えているトラス部材が損傷したりしたため、そうした箇所の補強をできるだけ減らせるような対策を考えることになりました。本橋は上部工の重量が大きいことから、既設のトラス桁支承を免震支承に交換するということが、そもそも不可能でした。そこで、トラス桁とその上の鋼床版道路桁との間にあるBP-B支承に手を加えることにしました。支承の数は(1支承線につき)、道路の上り線側と下り線側にそれぞれ4基ずつあります。この支承すべてを鉛直力のみ受け持つすべり支承(⑬)(ステンレス板とテフロン板を使って)に交換しました。さらに、それら支承間(1支承線につき)に4箇所、水平力を受けるゴム支承(⑬)を追加して設置しました。鉛直力をすべり支承が受け持ちながら、ゴム支承に作用する水平力をゴム支承の減衰力を利用して、トラス桁に作用する地震力を抑えてやったわけです。

 ――よく考えつきましたね
 西谷 耐震性照査の際、橋梁全体系の固有周期が小さくなり、地震時にトラス桁に大きな地震力が作用する結果になりました。トラス桁と鋼床版とが支承を介して接続されていることから、支承反力の分散化を図り、地震時における橋梁の揺れ方(振動モード)を変えることにより、結果的に、橋梁全体が長周期化し、トラス桁に作用する地震力を低減することができました。
 ゴム支承上面とその上沓との間には5mmほど隙間があります。一方、爪のような部材がゴム支承の周囲にあり、鋼床版が水平方向に動く際には、その水平力がゴム支承に伝わることになります。ゴム支承には鉛直力は作用せず、地震による水平力が作用する時にのみ機能する構造となっています。
 他にも、いろいろ対策を検討しました。本橋をはじめ瀬戸大橋の鋼橋は鉄道が走っているため(変位を防ぐために剛性を上げる必要があり)、横トラスの間隔が非常に小さくなっています。同じトラス橋でも、港大橋(阪神高速道路)などは、車しか走らないため、横トラスの間隔が比較的大きくなっています。ですから、橋軸直角方向の耐震対策として、トラス桁の横構を効率的に使うことができます。しかし、本橋は間隔が小さいため、あまり効果がでてきません。鉄道橋もしくは道鉄併用橋の宿命ともいえます。
 ――同橋の段差防止構造は
 西谷 結果として、本橋の支承は損傷を免れました。ただ想定外の地震力が作用し、支承が壊れた時に路面に段差を生じさせないようにするために、段差防止構造(⑭)を設置しました。

 一般に、段差防止構造は、連続形式の橋桁の場合、両端にのみ設置すればよいとされています。本橋はあまりプロポーションがよくないこともあり、もし、中間支承が損傷すると、トラス桁が落下し、トラスを構成する部材が座屈するなど、大きな被害に至る可能性があることが確認されました。そこで、端部のみならず、中間支点部にも段差防止構造を設けることにしました。段差防止構造としては、上部工の重量を考慮し、支承一箇所について、3つのRCブロックで桁を支えるところがあったり、RCブロックだけではなく、トラス桁にも鋼製ブラケットを取りつけて、段差が生じることを防いだりしています。

北備讃瀬戸大橋 1割弱の支承がアウト
 南備讃瀬戸大橋 グレーチング構造のため元々支承の耐力が小さい

 ――工事中の橋梁は
 西谷 現在工事中の瀬戸大橋の橋梁は、南備讃瀬戸大橋(SBB)、北備讃瀬戸大橋(NBB)、下津井瀬戸大橋(SB)、番の州高架橋(BVa)、櫃石島橋(HB)、岩黒島橋(IB)及び与島高架橋(YVa)の7橋です。
 このうち、下津井瀬戸大橋、北備讃瀬戸大橋、南備讃瀬戸大橋、番の州高架橋の耐震補強はほぼ完了しています。
 ――吊橋部は支承の補強を行ったようですね
  西谷 吊橋(⑮)は吊られている構造ですので、揺れは生じますが、地震力がトラス部材にはほとんど作用しないと考えています。トラス橋や高架橋のような損傷は全く生じないことが、照査結果からわかりました。ところが、吊られているトラス桁の上に載っている鋼床版道路桁の支承が、その支承条件が固定の方向にのみ損傷を受けることが確認できました。
 例として、北備讃瀬戸大橋を挙げます。(において)記号がついているのは、損傷する支承です。1088個の内、88個の支承が、地震時において、作用する地震力が支承の耐力を上回る結果となりました。橋軸方向にしても橋軸直角方向にしても、支承条件が固定になっている方向のみ、NGです(当然、OKのものも多数あります)。支承条件が可動の場合には、地震時に生じる変位量が支承として許容できる変位量を上回るようなことは全くありませんでした。吊橋においては、NGになった鋼床版下の支承について、腐食の補修をしつつ、固定側の耐力を強化するような補強を行いました。

 ――その他の橋梁は
 西谷 同様に、南備讃瀬戸大橋は1160個の内、160個の支承がNGでした。下津井瀬戸大橋は880個の内、88個の支承がNGになりました。いずれも、支承条件が固定の場合、NGでした。これらに対し、既設支承の耐力を大きくするような補強を実施しました。
 ――とりわけ南備讃瀬戸大橋が多いのはなぜですか
 西谷 吊橋は耐風安定性を確保するためにグレーチング構造となっています。南備讃瀬戸大橋は、橋梁の端から端まで全てグレーチング構造となっているのに対し、北備讃瀬戸大橋と下津井瀬戸大橋は場所によってグレーチング構造になっていない箇所があります。グレーチング構造になっていない箇所は、全幅員が鋼床版になっています。グレーチング構造は軽いので、それを支える支承の耐力が小さくても問題ありません。ところが、全幅鋼床版の部分は、鋼床版の重量を支える必要があることから、そこそこ耐力が必要になってきます。支承そのものが建設当時から比較的大きな耐力を有していたと言えます。そのため、耐力的にNGになる支承の割合が南備讃瀬戸大橋に比べて少なくなっていると考えています。南備讃瀬戸大橋はグレーチング構造を支えている支承が多く、かつ、それらの耐力が小さいものですから、より多くがNGになりました。
 耐震対策としては、不足する耐力を補う補強を行っています。具体的には、橋軸方向(⑰、⑱)にNGの支承の場合は、橋軸方向に横桁を挟み込むような形で、縦桁の前後に鋼製ブラケットを変位制限装置として取り付け、橋軸方向に発生する支承反力を受け持つようにしています。ブラケットの内側にはゴムの緩衝材を取り付けて、鋼部材が損傷しないようにしています。橋軸直角方向にNG(⑲)の場合は、横トラスの上弦材の上側に、縦桁を左右から挟み込むように、既設支承の耐力補強となる鋼製ブラケットを取り付けています。ブラケットの大きさは、既設支承の耐力と作用する力の大きさの関係から決定しています。


 ちなみに、鋼床版のパネルは1スパン13m程度、これが6つ連続して一つの鋼床版ブロックになっています。全長は約80mあります。鋼床版ブロックの両端にはフィンガータイプの伸縮装置があります。支承は、場所によって、M-M、M-F、F-Mといった記号がついていますが、支承の固定・可動の条件が異なります。鋼床版ブロック一つあたり、7支承線ありますが、そのうち、4支承線は橋軸方向及び橋軸直角方向ともに可動の支承が設置され、その次の2つについては、橋軸方向は可動で橋軸直角方向は固定の支承線、中央にあるのが、橋軸方向は固定で橋軸直角方向は可動の支承線、このような3タイプの支承線になっています。トラス橋と同様、1支承線あたり、8基の支承が設置されています。

斜張橋部 主塔近傍のトラス下弦材がアウト
 補強リブを取り付けて補強

 ――櫃石島橋、岩黒島橋(⑳)といった斜張橋部は
 西谷 ほぼ補強が完了したところですが、耐震性照査の結果、一番、損傷数が少なかったのがこの斜張橋2橋です。地震時に損傷する個所は、鉄道が走る直下の主塔近傍の横トラス下弦材のみです。北側にある櫃石島橋では4部材、南側の岩黒島橋では5部材の補強が必要となりました。
 ――同箇所で耐震性が足りない理由は
 西谷 ケーブルによって吊られていない桁の一部のみに損傷箇所が見られます。斜張橋の場合、ケーブルが斜めに張られていますので、損傷を受ける箇所はケーブルの助けがほとんどないところであり、かつ、桁には圧縮力が常時作用していますので、それらが複雑に影響しているのかもしれません。
 ――補強方法および数量は
 西谷 先程紹介したとおり、補剛材(㉑)を取り付けて、トラス部材を補強します。ちなみに、両橋とも、トラス桁と鋼床版が合成構造となっていますので、吊橋とは異なり、鋼床版道路桁の下に支承はありません。

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