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橋梁4348橋、トンネル130本を管理

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山口県
土木建築部
審議監

森岡 弘道

公開日:2019.10.31

2007年度からひび割れ抑制対策を開始
 2017年度には土木学会の技術賞を受賞

 ――山口県では他県に先駆けてコンクリート構造物の品質確保に取り組んできました。その取り組みは弊サイトの「コンクリート構造物の品質確保物語」シリーズの中でも報道してきましたが、取り組みが拡大し、評価された理由について、どのようにお考えになっているか、改めてお願いします
 森岡 県として「コンクリート構造物ひび割れ抑制対策資料」の運用を始めたのは2007年度です。当時、山口県職員(現 徳山高等専門学校客員教授)の二宮純先生には、在職中に実構造物における試験施工を実施するなど、この取り組みの礎を築いていただきました。
 本県の取り組みは、「山口システム」と呼んでいただいていますが、「協働」というキーワードに基づいて、発注者、受注者、生コン製造者、学識者がそれぞれの役割のなかで、よい構造物をつくろうという思いを持ち、それぞれの役割と責任を果たしていることが、一番の肝であると思います。
 横浜国立大学教授の細田暁先生をはじめ、先生方と取り組みを一緒に行ってきたなかで、マネジメントできるシステムに育てていただきました。2017年度には、関係者全体としての山口県、当時徳山工業高等専門学校教授の田村隆弘先生(現 福井工業高等専門学校校長)、二宮純先生、山口大学教授の中村秀明先生、細田暁先生の連名により、土木学会技術賞を受賞しました。PDCAを回せるシステムをつくりあげたことが評価されたと考えています。
 ――取り組みを継続し、現在の成果を出すまでにさまざまな苦労があったと思います。どのように対処をしたのでしょうか
 森岡 最初にシステムをつくることはできますが、世代と対象者が変わっていきますので、実効性のあるシステムを継続することに苦労しました。2007年度から運用を開始して、5年程経過した頃に形式的な運用に陥りました。「施工状況把握チェックシート」を書くことが目的となってしまったのです。
 そこで、各土木建築事務所内にコンクリート品質確保の推進委員を配置するとともに、取り組みに関しての相談に乗る体制を構築しました。また、各事務所の職員研修に技術管理課の職員が参加する、あるいは山口県建設技術センターと一緒に研修を行う体制を整えて、研修を充実させました。
 毎年開催している技術講習会にも「協働」のメンバーの方に参加していただいて、実際の施工事例を発表してもらい、次の取り組みに活かすことも行っています。400~500人が参加する技術講習会で発表できるということで、やる気にもつながっていると思います。


技術講習会の様子

 2014年度には「コンクリート構造物ひび割れ抑制対策資料」を発展的に改訂して、「コンクリート構造物品質確保ガイド」に移行しました。これは、これまでのひび割れ抑制対策の運用で得られた多くの知見を踏まえて、その対象を「ひび割れ抑制」から「品質確保」に拡大したものです。また、少しでも新しい知見を取り入れることで、システム全体が停滞しないようにするため、このガイドも継続的に改訂しています。
 このような取り組みを継続してきたことにより、現在では研修として使えるような模範的構造物もたくさん出てきています。本県の取り組みは、有害なひび割れの抑制対策から始まっていますが、当初よりもかなり減っていることがデータ上から言えます。具体的には、毎年、データベースに数十件の施工記録を登録していますが、1~2件以外は無害な範囲に収まっています。
 おかげさまで、本県の取り組みに対して県外からも多くの方が視察に来てくれていますが、山形県の施工者の方が単独で10数名来られたこともありました。会社単独での視察は初めてでした。
 ――受注者からはどのような声を聞いていますでしょうか
 森岡 取り組み前は、なかなかコミュニケーションがうまくいかない“不機嫌な現場”が多くありました。取り組みを進めるなかで、現場担当の方とできるだけ意見を交わすようにして、みんなが良いものをつくるために前向きに考えられるようになってきました。
 県側でも材料について適切に計上することを伝えるようになりました。それまでは、工事成績評定の「品質」の評価において、ひび割れが発生した場合は他の評価対象項目の結果に関わらずc評価(±0)として扱っていました。ほとんどの場合、ひび割れの幅や種類に関係なく適用されていました。
 しかし、これについても、明らかに不適切な施工により発生したと判断される場合を除き、適切に調査補修が行われれば評価するように工事成績評定表を改訂しました。県でも取り組めることはしっかりと取り組んで、お互いが正当な評価をできるようなことを少しずつ行ってきました。
 その間に入っていただいたのが、田村隆弘先生をはじめとした先生方で、それが実を結んだのではないかと思います。

コンクリート施工記録データベースに1,755件を登録
 施工記録を使用してひび割れ抑制設計を行う

 ――山口県では取り組みが浸透して、どのような施工者でもコンクリート構造物の品質確保ができているのでしょうか
 森岡 まだそこまでいっていませんが、取り組みが基本になっていることはあると思います。新しい会社が施工することはありますし、発注者も受注者も世代が代わります。そうなると、新しい研修方法を考えていかなければならないし、昔みたいに徒弟制度で「見て覚える」ではなかなか業者さんも難しいと思います。
 研修ツールという点では、動画コンテンツの開発を山口県建設技術センターと徳山工業高等専門学校の共同研究で取り組んでいます。コンクリート構造物をつくるためのノウハウや研修ツール、現場での作業を動画で紹介していくものです。
 取り組み全般について工夫をしていかなければならないし、そのためには先ほどの継続的なガイド改訂も重要なポイントだと思います。
 ――現在はどのような研修を行っていて、その頻度は
 森岡 研修メニューはふたつあります。ひとつは、施工状況把握チェックシートを使用している施工中の現場に行って、未体験者に現場担当者と県職員が講師になって、施工状況を確認しながらチェックシートの使い方と目的を学ぶ研修です。
 もうひとつは、システム導入前の構造物と導入後の構造物をそれぞれ評価し、システムの効果を確認するものです。取り組みを行うと品質が向上することを目で見て確認すると、構造物が良ければ良いほど、参加者に印象が残ります。また、その差異を実際に確認することが一番分かりやすいので、そのような研修を行っています。研修の頻度は、各土木事務所でそれぞれの研修を毎年1回は行うようにしています。


施工中の現場での研修

 ――これまでの取り組みを通して、データベースに登録されてデータ数は。また、そのデータをどのような活用をしていますか
 森岡 コンクリート施工記録データベースには、1,755件のデータが登録されています(2019年3月末時点)。これは構造物数ではなくてリフト数です。このデータを使用して、ガイドの改訂を行っていますし、設計・施工の参考にしていますので、システムの中核となっています。
 また、データベースにある既往の施工記録を使用して、ひび割れ抑制設計をすることを標準で行っています。データが増えてくると、設計データが変わってくることもありますので、それを適宜反映した設計手法を取り入れています。
 全体では1,755件ですが、例えば橋台のたて壁の幅が約10mのものを抽出すると100件程度となっていますので、より質の高い施工記録がデータとして集まってくると設計の精度も上がってきます。


コンクリート施工記録データの推移

 現在、ガイドではたて壁の目安の鉄筋比は0.3%と記述されていますが、鉄筋量を縮小できる可能性が見えてくれば、目安の鉄筋比の見直しを検討し、ガイドの改訂に反映することもあるでしょう。そのような意味でデータは重要であり、継続的な蓄積を行っています。
 ――データは設計者、施工者も活用できているのですか
 森岡 システム上、設計段階から活用し、必要なひび割れ抑制対策も含めて、設計成果として納めていただくようにしています。それを施工者が引き継いで、例えばリフト割りを施工の関係で変更すれば、またそのデータを引用して、変更後のリフトで必要な鉄筋比を検討して、施工に反映することを行っています。
 事例としては稀かもしれませんが、このような見直しをすることは仕組みとしてあります。その場合は、発注者も参加して協議を行い、見直しが妥当かどうかを確認して、引き継ぐ方法をとっています。
 ――データをほかの自治体に提供していることは
 森岡 ガイドとデータはインターネット上で公開していますので、本県のデータを活用して、同じ設計ができる環境は提供させていただいています。
 東北地方整備局では、ひび割れの照査は、既往の実績による評価を用いることを基本とし、山口データを当面照査に活用することを推奨されています。また、群馬県のガイドラインでも温度ひび割れの照査は実績による評価を基本とし、当面は、山口県のコンクリート構造物品質確保ガイドに示されているコンクリート施工記録データベースを用いる、というやり方を記述されています。
 県外での活用が広まり、使用されればデータの精度が高まり、信頼度も上がり、結果的に山口県にとってもプラスの効果が得られることを期待しています。
 ――具体的な取り組み事例を教えてください
 森岡 一般国道491号下小月バイパス整備事業(下関市清末~小月、延長1.7km)でのボックスカルバート工事では、2017年11月~12月にスランプ8cmと12cmの試験施工を実施しました。
 延長32.8m、3ブロックの現場打ちボックスカルバートです。両端の2ブロックは従来通りの8cmで施工、中央のブロックは同じ人員配置と同じ機材で12cmでの施工をして、施工性と品質への影響を確認しました。


2号ボックスカルバート概要図

2号ボックスカルバートの施工

2号ボックスカルバート施工後

 コンクリートの流動性が高くなると、締固めバイブレータの挿入間隔を大きくできるのではないか、といった安易な考えから品質の低下につながる懸念も若干ありましたので、施工状況把握チェックシートを使用して確認していきました。
 出来ばえについても、通常のシステムでは導入していませんが、表層目視評価法を準用して、産官学の協働で評価を実施しました。結果としては、現在のシステムで、施工状況把握チェックシートを活用して、丁寧な施工を順守すれば、スランプ12cmでも品質が保てることが最低限確認できました。
 ――ありがとうございました
(2019年10月31日掲載 聞き手=大柴功治)

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