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NEXCO西日本 里深技術本部長インタビュー

西日本高速道路株式会社
執行役員技術本部長 兼 海外事業部長 兼 安全管理部長

里深 一浩

公開日:2019.10.31

桁端部の損傷対策を計画的に実施

 ――既設構造物の塩害、ASRなどによる損傷が散見されますが、RC・PC部材の防食・劣化対策の採用・開発方法について
 里深 橋梁の損傷が最も著しい部分は、他の機関と同様に桁端部です。主に伸縮装置から凍結防止剤入りの水が漏れることによって、損傷を拡大させています。桁端部の劣化が顕著になってからの断面修復は行っています。施工はWJにより脆弱部を斫った後に、マクロセル腐食対策として母材にシラン系含浸材を塗布し、腐食電流を出にくくした後に断面修復することを松島高架橋の中空床版補修では行いました(下写真4枚)


 ――床版の断面修復も要領改訂に伴いWJによる斫りを行えば、要求性能を満たせばモルタルでも恒久的補修として認めることになりましたが、NEXCO西日本はどのように考えていますか
 里深 床版面に関しては舗装を切削してみないとわからない点が多すぎます。材料の手配も含めて、現場状況に応じて是々非々で対応していくしかないと考えています。

耐候性鋼材 飯牟礼橋の補修を今秋から実施
 錆は硬く通常のブラストでは取れない

 ――耐候性鋼材を採用した橋梁で錆による劣化・損傷が報告される事例が出てきています。NEXCO西日本でも飯牟礼橋が該当すると思いますが、この対策と、今後の耐候性鋼材橋のメンテナンスをどのように考えていますか
 里深 減肉している箇所についてはボルトの交換や当て板をしなくてはいけないと思います。確かに安定錆の形成ができていない橋梁があるので、そうした錆は除去し、場合によっては重防食塗装を施さなくてはいけないと思います。
 飯牟礼橋については、下弦材の下面が局所的に顕著な層状さびを起こしている状況です。今秋から補修に入っています。


飯牟礼橋

同橋の損傷状況①

同橋の損傷状況②

 ――耐候性鋼材の悪性錆は硬く、さらに塩分がポーラスな中に入り込み塩分が除去しづらいということを聞きます。塗装を施工すると仰いますが、その錆除去方法はどのように考えられていますか
 里深 普通のブラストでは無理だと思います。そのため、ジェットタガネなどで錆を削り取り、さらにブラストするようなことが必要だと思います。塩分を除去するための水洗いも必要です。
 ――NEXCO西日本では塩分除去用にウルトラファインバブルも開発していますが、同手法を飯牟礼橋で使わないのですか
 里深 そうした工法も試験的に取り入れる予定です。

AutoCIMA、Jシステム、Duraシリーズも開発、実用化

 ――全国的に異常気象などによる土砂災害が相次いでいますが、NEXCOでも道路に関する斜面や古い法面、盛り土構造などをどのように補修・補強して道路を守っていくのか技術の採用・開発動向を教えて下さい
 里深 特定更新の中にも含まれていますが、土砂災害の危険性がある盛土・法面は、水抜き対策、グラウンドアンカーの更新、法面の排水施設の修繕を行っています。


既設盛土の対策事例

排水施設の対策事例

グラウンドアンカーの対策事例

 ――新技術やコスト縮減策、独自の新技術、新材料の活用について
 里深 国の進める点検支援技術に合致する点検手法としてAutoCIMA(デジタルカメラ構造物点検システム)とJシステム(赤外線トータルサポートシステム)を活用して点検業務の効率化を行っています。
 AutoCIMAは、高解像度のデジタルカメラで橋梁床版の下面などを撮影し、撮影画像からひび割れを自動で判別、図化する技術です。


AutoCIMA

 Jシステムは、コンクリートの浮き・剥離などの変状部分は、健全部分とコンクリートの表面温度が異なります。この温度差について赤外線カメラを用いて感知し、変状箇所を特定するシステムです。


Jシステム

 トンネル点検技術としては、ラインセンサカメラを用いた覆工コンクリートの健全度調査システムとして、時速100kmの速度で走行して調査できるeQドクターTを既に本格運用しています。近赤外線LED照明の採用による撮影照明の不可視化により、他の通行両の脇見運転を抑制できます。


eQドクターTの走行写真/撮影写真例

 ――材料・構造的な新技術は
 里深 塩害による腐食劣化対策として、NEXCO西日本では、三井住友建設と共同で、2010年3月から、鉄筋やPC鋼材に代えて、腐食しない新材料(アラミドロッド、アラミド性PC材)を用いた非鉄性材料を用いた超高耐久橋梁:Dura-Bridgeの研究開発を進めています。その派生プレキャスト製品として、Dura-slab(プレキャスト非鉄PC床版)やDura-barrier(プレキャスト非鉄RC壁高欄、被りコンクリートにビニロン短繊維、鉄筋代わりにGFRPロッドを使っている)の開発を進めています。


Dura-Bridge

Dura-Bridge(長崎道の工事用道路で建設した実証橋)

広い桁内/アラミド製の緊張材

Dura-slab/Dura-barrier

 雨天走行中の車両のスリップ対策として、伸縮装置表面の滑り止めが求められます。また、橋梁桁端部の主な劣化原因は伸縮装置からの漏水であることが知られています。そこで、「滑らず・錆びず」耐久性・耐摩耗性に優れた伸縮装置への金属溶射工法として、「アスキッド工法」を開発しました。主に橋梁の鋼製伸縮装置のフェースプレートに使用します。
 また、高速道路の付属物のうち、トンネルや橋梁部に設置してある鋼製の集水マス蓋は、発錆等により腐食・変形する事例が発生していることから、ガラス繊維強化プラスチックを素材(GFRP)とする錆びない排水マス蓋「E-リカバー」を開発しました。
 E-リカバーは、トンネル用と橋梁用があり、トンネル用についてはいくつかのサイズに対応しています。


交換前の劣化した排水桝及び蓋

設置直後のE-リカバー/設置1年後のE-リカバー

 GFRPを用いることで、軽量化による施工性向上のほか、耐久性向上が期待できると考えています。
 ――ありがとうございました
(2019年10月31日掲載)

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