道路構造物ジャーナルNET

オール水性塗料で安全性・環境性を向上させる

首都高速 鋼橋塗装設計施工要領改訂の詳細について聞く

首都高速道路
技術部長

大塚 敬三

公開日:2019.08.30

IH塗膜除去工法 移動式やアイロン式を使っていく
 アンカーパターンの形成はブラスト面形成動力工具を活用

 ――次にIH塗膜除去工法について
 大塚 循環式ブラスト工法の採用が困難で、下地処理が無機ジンクリッチ系塗料でない場合には、まずIH塗膜除去工法を選定します。要領の中に移動式とアイロン式という二つの方式が記載されていますが、「移動式」は、グループ会社である首都高メンテナンス東東京の開発したIH式塗膜除去機械の方式です。但し、他の同種の工法も開発されており、現場条件に応じて、適切に選定することにしています。


IH式塗膜除去工法(Ⅲ-12)

 IH塗膜除去工法は、IHクッキングヒーターと同じ電磁誘導を使ったIH塗膜剥離機を使い、240℃以下で塗膜を加温して鋼材から剥離させる工法です。IH塗膜剥離機使用時は騒音も粉塵も発生しないため、IH塗膜除去工法の後方設備の設置が可能で循環式ブラストが採用できない場合に選定することとしました。


IHによる塗膜除去の施工例(首都高メンテナンス東東京提供)

IH後の塗膜搔き落とし状況(首都高メンテナンス東東京提供)

 但し、IH塗膜除去工法は樹脂成分を加温して軟化させるため、樹脂量が極端に少ない鉛丹さび止めペイントや無機ジンクリッチペイントといった類の除去には適さないといった難点があるので、選定の上では注意が必要です。
 剥離した塗膜は、粉じんが飛散しないよう、電解質アルカリイオン水によって湿潤化した状態でスクレーパーを用いて除去します。また、IH塗膜剥離機では錆の除去やアンカーパターンの形成はできません。施工後にブラスト面形成動力工具(いわゆる『ブリストルブラスター』)によって仕上げることが必要です。ブラスト面形成動力工具は、縦回転するワイヤーブラシで鋼面の錆や塗膜を除去する工法であり、アンカーパターンを形成できる工具です。


ブラスト面形成動力工具(Ⅲ-11)

塗膜剥離剤 1回塗布で剥がせる箇所に限り採用
 可燃性を有するシンナー使用の誘惑を断つ

 ――塗膜剥離剤の使用については
 大塚  後方設備の設置が困難で、循環式ブラスト工法やIH塗膜除去工法が採用できない場合は、塗膜剥離剤を用います。塗膜剥離剤には、塗料と同じく非危険物化を図るため、消防法の危険物あるいは指定可燃物に指定される物品に該当しない材料に限り、用いることができるようにしました。材料については、民間共同研究を通じ、非危険物化を図り、かつ一回の塗布で既設塗膜の全層が剥がせる材料が確認できたことから、今回の改訂で鋼橋塗装設計施工要領に採用することにしました。
 塗膜剥離剤による塗膜除去においても、IH塗膜除去と同様にアンカーパターンをそれ自体では形成できないことから、施工後にブラスト面形成動力工具によって仕上げることが必要です。


消防法の危険物あるいは指定可燃物に指定される物品に該当しない塗膜剥離材の試験施工

 ――塗布回数を1回に限定するのはなかなか厳しいですね
 大塚  前回の火災事故の要因として、塗膜剥離剤を使用して既設塗膜を除去していた際に、塗膜剥離剤では取り切れなかった塗膜や、剥離剤のぬめりをシンナーを用いて除去しようとしたことがあります。(複数塗布することによって生じる)費用の面もさることながら、この危険物であるシンナーを用いることに対する誘惑を断ち切るためにこうした規定を設けました。


1回で除去できなかった場合

一回で除去できた場合

 ――塗布回数1回で塗膜を除去できるかどうかをどうやって判断するのですか?
 大塚  該当する現場において使用する塗膜剥離材による試験施工を行い、1回で除去できることを確認した上で施工します。
 ――循環式ブラスト工法、IH塗膜除去機、塗膜剥離剤のいずれも使用が困難な場合は
 大塚 これまでの要領でも規定されている集塵機能付きダイヤモンドホイール、集塵機能付きサンドディスクサンダーによる乾式工法の素地調整を用います。作業にあたってはHEPAフィルター付きの真空掃除機を工具に接続し、粉塵飛散を確実に抑制します。また、仕上げ施工としてブラスト面形成動力工具を用いてアンカーパターンの形成を仕上げることが必要です。


集塵機能付きダイヤモンドホイール(Ⅲ-13)/集塵機能付きサンドディスクサンダー

場所によっては高速多針たがね(Ⅲ-14)や

リベット用塗膜除去工具(Ⅲ-15)、

ボルトナット用塗膜除去工具(Ⅲ-15)も用いていく

 以上申し上げました通り、素地調整につきましては、選定フローに従い、錆もしくは塗膜の除去が必要な場合は、素地調整1種もしくは素地調整1種相当の処置をすることにしています。しかし循環式ブラストによる施工が困難で、下地塗料が無機ジンクリッチ系塗料である場合に限り、素地調整2種の使用を認めています。今回の改訂で採用した水性有機ジンクリッチペイントは、素地調整2種を施工した後に塗布すると、点錆であるフラッシュラストの発生が避けられません。しかし、無機ジンクリッチ系の塗料が残存していれば、その上に塗布する塗料を水性有機ジンクリッチペイントとしてもフラッシュラストの発生が抑制されると考えられるためです。

素地調整3種は廃止

 ――素地調整3種の廃止について
 大塚  素地調整3種に求めていた上塗りだけを除去するという目的が実現されていない現場が確認されたこと、粉じんが多く飛散する工法であったため、今回の要領で廃止することにしたものです。錆や塗膜除去の必要がなく塗色のみを更新する場合には、汚れ除去や面粗しのみを行う素地調整4種を選定することにしました。

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