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インタビュー詳細

4つの重要な改定点

国交省 新道路橋定期点検要領の重要改定点とその狙い

国土交通省 国土技術政策総合研究所
道路構造物研究部
橋梁研究室長
白戸 真大 氏

 国土交通省は2月末に新しい道路橋定期点検要領を発表した。4月からの2巡目の橋梁点検が始まるのに際し、1巡目の橋梁定期点検のデータの蓄積や課題を反映し、アップデートしたもの。その内容について、国土技術政策総合研究所の白戸真大・道路構造物研究部橋梁研究室長に聞いた。(井手迫瑞樹)


免れない構造物の経年劣化

 技術のアップデートが必要
 ――平成26年度の半ばから5年にわたって近接目視を基本とした橋梁点検の一巡目が終わったわけですが、その評価と課題についてどのようにとらえていますか

 白戸室長 初めて近接目視が行われる橋もあり、一定程度のIV判定も見られたり、措置が必要な橋も見られました。安全性の確保について成果があったと考えます。今後、予防保全も含めて、措置を進めていくことが課題です。

 構造物の経年変化は免れませんし、また、トンネル天井板落下事故の報告書にもあるとおり、過去に作られた構造物の設計、施工品質には今となってみればばらつきが大きいものも一定程度あると考えるべきでしょう。したがって、定期的に点検をすることが必要ですが、持続的に続けるためには、技術開発される様々な支援技術も使いながら、作業負担の軽減も求められます。たとえば、アンケート調査等を行ってみると、各管理者では、平成26年の定期点検要領(技術的助言)で求めている最低限の損傷写真や橋としての診断結果のみならず、損傷図を作成したり、詳細に写真を保存したり、また、国が行っているような損傷程度も記録していたりしていることも分かりました。

 一方で、単に作業負担を軽減するというのではなく、継続的に質が向上していくことも重要です。損傷の実態を見れば、吊橋や斜張橋などケーブルを有する橋、橋梁でも水中部では点検が難しく専門性を有し、なおかつ橋数としては少ないため、特に基礎自治体では、知見を蓄積する機会も少なく対応に苦慮する様子がわかってきました。また、既に第三者被害防止措置を講じた箇所で、措置した材料ごとコンクリートの塊が落下するなどの事象も見られています。

 こうした点をアップデートしつつ、より実態に即した要領にしようと苦心しました。

 ――本文と付録、そして技術資料がよりすっきりとした形になっていますね

 白戸 意識しました。本文は法令(省令や告示に拠る)として遵守しなければいけない部分、付録は実際運用に即した技術的注意点、参考資料は個別分野の資料という様に階層化しました。前回の要領は、技術的助言とは言えモデル要領とも言えるものでした。今回の要領では、各管理者が、法令を満足できるような定期点検を行うにあたり、自由度を有する部分とそうでない部分を明確にしました。新しい技術の活用が進むこと、管理者の実情に応じた記録作業内容になるような要領を作成しやすくなることが狙いです。


点検方法の効率化
 溝橋、RC(充実断面)床版橋、H形鋼橋など

 ――主な改定点は

 白戸 定期点検の頻度や方法については省令に規定されています。この点について、定期点検データの分析から、損傷がない部材でも5年後には損傷が発生・進行することは見られること、また、実際の損傷写真、平成26年以後の事故事例等も踏まえると、省令を見直す状況にはないと考えています。また、道路技術小委員会では、委員会での審議に加えて各分野の専門家の意見聴取も行っていますが、橋梁分野の専門家の方々のご意見も同様でした。

 はじめにもお話しましたが、定期的に近接目視や打音検査を行うことは、笹子トンネルの天井板崩落事故も踏まえたものです。それを受けて道路ストック総点検がなされ、平成26年度の道路法改正(点検の法律化)に当たり、法改正の趣旨に沿った要領として平成26年度版の道路橋定期点検要領(以降「要領」と記す)が出ました。今回の改定でも、この主旨は替わりません。


 このような中で、今回の改定で力を入れた点は、4点あります。


 第1点は、定期点検の方法の効率化です。もっと言えば、定期点検の性能規定化とも言えるかもしれません。道路管理者が欲しいのは、道路管理の参考にできる診断結果です。そのために、省令では、知識と技能を有するものが行うものとしています。また、損傷としては、近づいて見たり、叩いたりすれば分かる範囲のものは見つけようということです。つまりは、健全性の診断を行う知識と技能を有する者が、自ら近づいて変状を見つけて、健全性について所見をまとめたときと同等の質の所見になると判断できれば、損傷を把握する方法については自由度があってもよいということになります。そこで、今回、健全性の診断を行うものが状態の把握まで一連の責任を持つこと、このとき、健全性の診断を行う者は、要求性能が満足されれば、部材等の一部について必ずしも近接しないことも選択できることを示しました。

 誤解があってはいけませんが、定期点検を担当する技術者が現地で方法を決めればよいというものではありません。定期点検要領では、定期点検の実施や結果については、道路管理者の責任において適切に行うことが求められます。一方で、現地で状態を把握し、健全性の診断を行うものが点検方法を選ぶということになるので、道路管理者が方法を画一的に決定するということも、ふさわしい方法ではありません。近接目視、打音・触診等、基本によらない場合には、道路管理者と点検技術者が協議し、方法を決めることになります。協議の目安ともなるように、今回の改定では、付録に、定期点検の目的も明記していますし、また、状態を把握を行うにあたっての技術的な留意点も充実しています。なお、定期点検の目的とは、①次回までの間におけるコンクリート片落下等による第三者被害の回避、②次回までの間における落橋や長期の機能不全の回避、③長寿命化のための時宜を得た対応――です。


変状や構造特性に応じた定期点検の合理化(国土交通省発表資料より抜粋、以下同)
 多様な構造、外力・環境条件、交差条件、初期品質の橋があるので、点検方法について、具体的に目視によらない場合を画一化することは難しいのですが、その中で、今回の改定では、たとえば溝橋(ボックスカルバート)については、着目すべき箇所や変状箇所の特定部位をスリム化したり、内空の状態の把握にはカメラも活用するための留意点も示すことで、点検に要する作業負担を減らせることを具体に示しています。これ以外について、RC床板(充実断面)、H形鋼橋についても、現地での目視等の作業内容が減らせる場合があることを紹介しています。逆に言えばこれら以外については今時点では例を示すに至っていませんが、例を示したものだけでも全体の5割程度の橋数になります。

合理化の具体的内容(左)溝橋、(右)RC充実断面

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