道路構造物ジャーナルNET

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2019新春インタビュー① 道路橋メンテナンスにAI(エキスパートシステム型)活用を

国立研究開発法人
土木研究所
理事長

西川 和廣

公開日:2019.01.01

グースアスファルト床版防水の適用も模索
 集排水機構の改良も研究

 ――グースアスファルトですか
 西川 そうです。ジャーナルNETでNEXCOの事例を掲載してくれたので、それでひらめきました。舗装チームでは、NEXCOとは異なるアスファルトを用いた配合技術を実験しています。もう少し低温で施工できて、臭気の少ないものです。グースアスファルトの基層が防水機能を受け持てば、床版の防水はしっかりします。昭和62年に「道路橋鉄筋コンクリート床版防水層設計・施工資料」をつくったときも、防水層には3種類(塗膜、シート、マスチックアスファルト)あるとされていたのですが、そちらに行かなかったのが残念です。


RC床版土砂化の予防保全

RC床版土砂化の新局面

RC床版上面土砂化の一例

 ――そうだったんですね
 西川 グースアスファルト防水を施工して万一、水が浸透したとしても、電磁波レーダで探査できる。これがあったから、発想できた工法とも言えます。
 また、舗装打ち替えのたびに床版を削ることをやめさせたいと思ったのも採用を目指すもう一つの理由です。舗装が損傷しても表層だけ替えて、基層のグースはそのまま使えば、それだけで床版の寿命が延びます。
 もうひとつは排水を改良したい。排水枡は床版の弱点になります。基本は、水は路面を速やかに流すことです。


排水管や桝周辺の損傷事例

 ――どこで集水するのですか
 西川 できるだけ土工部にもっていきたいのですが、最低でも橋脚の直上で、できるだけ真下に落とせば排水管は詰まらないので、横引きは不要になると思っています。橋面排水の研究は今まで行われた形跡がありませんので、AI研究の周辺研究としてやらなければなりません。いまだに理論から推して行う設計ばかりですが、今では50年以上の橋が沢山あるのですから、そこから学んで設計を行うようになれば、橋を長持ちさせることにつながると思います。
 ――逆算の考え方ですね。しかしそれを言うなら床版防水についていえば防水だけが悪いのではなく、下地処理の不徹底に起因する不具合もあります
 西川 だから舗装で対応しようと考えているのです。舗装の打換え時にまともな下地処理ができますか?想像力のある人が仕事をしていない。どんな仕事にもイマジネーションが必要です。
 ――措置のために使う工法、材料についてはいかがでしょう。ある意味NETISを批判されているようですが
 西川 論理的に考えれば、NETISで耐久性を証明するのは不可能だとすぐにわかります。技術審査証明などを受けていれば良いのですが、なんとかレビューができないかと考えています。施工記録をしっかり残すようになれば、自ずから評価が残ることになります。

診断には責任が伴う
 継続的な更新が必要

 ――土研が診断AIの開発に主体的に取り組む理由は
 西川 診断には責任が伴うためです。
メンテナンスサイクルへのAIの導入では、診断のAIの導入が胆です。それ以外はあるレベルを満たしたものを誰かが開発すれば使えますが、診断はシステムによってばらつきがあってはならないし、そもそも信用されません。できれば国土交通省の、最低でも土木研究所の保証が必要だと考えました。


点検・診断AI見取り図

 またシステムは完成したら終了ではなく、継続的な更新が必要です。新しい損傷例や矛盾するケースが出たときに判断し、更新していかねばなりません。それは継続性のある組織が行うべきであり、土研が行うべきだと考えました。ただ、私の任期はあと3年3か月ほどしかありません。この間に何とか道筋だけでも作りたいと考えています。

AIが検討事項を教え、見落としを防ぐ
 AIはあくまで道具、技術継承と担い手確保が目的

 ――AIが完成した後に、どのように技術者をつくるような感覚なのですか。例えば新しく診断技術者になりたいという人間をどのように教育していくのですか
 西川 最低限、研修を受けた人が、AIを使って仕事をすればよいと思います。それで点検、診断業務を行うと、AIが検討事項を教え、見落としが無いように教育してくれます。経験が少ない技術者でも、熟練技術者レベルの診断ができるようになること、それによって次世代の技術者が育つことがこのたびのAIの開発目標です。
 決して人間の能力を超えるような診断を行う必要はありませんし、それはできないと思います。できあがったときにそんなのはAIじゃないと言われるかもしれないとも思っていますが、それでいいのです。AIはあくまで道具です。目的は人口減少の中で担い手の確保を図ること、次世代に技術を継承してインフラの長寿命化を実現することです。どのタイプのAIでも目的に適合した機能を発揮することができるのならば、躊躇なく使えば良いと考えています。
 ――ありがとうございました

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