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インタビュー詳細

鋼構造物の防食上大事な9項目を網羅

土木学会の鋼構造物の防食性能の回復に関する調査研究小委員会の成果を出版へ

九州大学
准教授
貝沼 重信 氏

 九州大学の貝沼重信准教授は、土木学会の鋼構造物の防食性能の回復に関する調査研究小委員会(委員長:貝沼重信、委員:約50名)や腐食防食学会の建設小委員会(委員長:貝沼重信、委員:約20名)を主軸として、活動している。これらの委員会は、土木分野だけではなく、化学、材料科学、電気化学などの様々な専門分野の第一線で活躍する研究者や技術者で構成され、学際的視点で鋼構造物の腐食防食について議論している。今年度中に土木学会委員会の成果として、「大気環境における鋼構造物の防食性能回復の課題と対策」を出版する予定だ。その詳細について聞いた。(井手迫瑞樹)


 ――成果の内容は

 貝沼 大気環境中の鋼構造物の防食性能回復にかかわる基準類やマニュアルの策定、技術開発の際の参考資料です。そのため、学術情報だけではなく、現場施工の実情に即した課題や対策についても執筆しています。

 ――検討項目は

 貝沼 ①腐食損傷事例と防食性能回復の課題、②部位レベルの腐食進行性と腐食環境の評価手法、③構造改良による腐食環境改善、④防食性能回復時の鋼素地調整、⑤防食皮膜(塗装、金属皮膜(溶射、めっき))、⑥耐候性鋼、⑦防食性能回復に関する新技術紹介、⑧防食性能回復の考え方と対策例、⑨防食性能回復に関する基礎知識の9項目です。


部位レベルの環境腐食に応じる

 ――まず、①、②から

 貝沼 鋼構造物の腐食環境は、部位レベルで大きく異なることが多いため、構造物全体の防食性能を同様な仕様で回復するのではなく、部位レベルの腐食環境に応じて回復することが重要であると考えています。部位自体の環境によっては腐食進行しやすいところもあれば(写真1、上)、塗膜劣化して無塗装状態となっても腐食進行しにくい部位もあります(写真2、下)。例えば、直射日光により塗装劣化しやすい部位は、付着塩も雨洗されやすく、濡れ時間も短くなることが多く、腐食が進行しにくい傾向にあります。したがって、すべての部位を同じ仕様で防食性能回復することは、必ずしも効率的とはいえません。腐食が進行しやすい部位は防食性能レベルを高くして、進行しにくい部位は場合によっては防食性能を回復せずに、経過観察にしてもよいと思います。したがって、100年で数ミリ程度しか減厚しない部位が大半である橋梁については、腐食が進行しやすいごく一部の部位を除き、再塗装しないことも選択肢として考えられます。本委員会では腐食を発生させないことではなく、腐食が進行しやすい部位に着目して、防食性能回復するという視点で取り組んでいます。

 また、本委員会では防食と外観・景観性に対する維持管理を切り離して、防食のみに着目して検討しています。


防食と景観を切り離して検討

 ACMセンサを貼付してモニタリング

 ――それは大事な視点です

 貝沼 鋼橋については、腐食が進行しにくく、供用中に構造上重要部位の耐荷力が低下しない部位であれば、防食が必ずしも必要無いと考えます。極端な言い方をすると、外観・景観性が重要な橋梁は、目につく部位だけに手をかければよいことになります。

 腐食進行性(腐食速度の経時性)については、飛来塩分に着目した議論が一般にされますが、飛来塩分量を測るだけでは意味をなしません。飛来塩分量が多くても長期間付着する塩分量が少なければ腐食は進行しにくくなります。湿度などによる濡れ時間も腐食進行性に大きく影響します.付着塩量は降雨による雨洗作用の程度、湿度や部材の表面状態(濡れ、塗膜劣化、腐食状況)などによって大きく異なり、経時変動します。また、腐食部位の表面と内部の塩分量が大きく異なり、それらに相関がないことも多々あります。したがって、飛来や付着した塩分量から鋼材の腐食進行性を推定することは難しいといえます。防食性能回復する際の参考データとしては、経時変動や相互干渉が複雑な塩分量や湿度などの腐食因子ではなく、小片裸鋼板を貼付・暴露するなどして、その腐食量で直接評価する方が理にかなっていると考えています。こうした取り組みを吊橋などの鋼橋や他の鋼構造物についてやってきました。

 ――具体的にはどのようなことをしたのですか

 貝沼 例えば、吊橋については、構造上重要な部位や維持管理しにくい部位に着目して、モニタリングポイントを二百数十部位選定して、小片鋼板を対象部位との熱伝導性を考慮して貼付・大気暴露することで、腐食が進行しやすい部位をスクリーニングしました。その後、この部位のみに腐食センサ(ACMセンサ(写真3、右))を貼付・モニタリングすることで、腐食要因(漏水・滞水、結露、付着塩など)を特定しました。このように、先行して、小片鋼板で腐食進行性を評価することで、腐食環境モニタリングのコストを大幅に削減し、不要なデータを収集しないことにしました。また、腐食速度について、1年あたりの鋼材の腐食減耗量を示すだけではなく、既に提案している評価方法でその経時性を明らかにしました。

 ――③は

 貝沼 例えば、滞水時間について、漏水しても、排水勾配などで速やかに導水することで濡れ時間を短くできれば腐食が進行しにくくなります。桁下フランジや橋脚・橋台の天端に導水・排水構造を設けることなどが該当します。これらは同じ構造であるからと言って一律にやってもうまくいきません。実際にモニタリングするなどして、腐食が進行しやすい部位を見極めた上で対応する必要があります。部材の製作時の溶接変形、土砂落葉堆積や腐食による部材の表面起伏などによっては、排水勾配が不十分になり雨洗作用が期待できない場合もあります。そのため、対策前後でその効果を検証する必要があります。経験や恣意的に判断するのではなく、腐食の進行のしやすさを定量的かつ経時的に評価する必要があります。また、防食性能回復に際しては、点検時の腐食状態ではなく、腐食進行性を評価することが重要になります。


素地調整を適切に選ぶことが大事

 ――④は

 貝沼 鋼素地調整時の施工環境や防食状況に応じた素地調整工法の選定についてまとめています。狭隘部や入隅部などで不適切な素地調整工法が選定され、不適切な鋼素地面となることで、早期に塗膜下腐食が生じた事例が多数報告されています。これらの事例を示した上で、状況に応じた工法の選定についてまとめています。また、ブラスト処理時の研削材の鋼素地への突き刺さりによる残留、素地調整の不可能・困難部位の事例や付着塩(表面、内部)の除去方法についても述べています。

 国内では素地調整を鋼素地面の品質ではなく、素地調整工法(使用工具など)で管理しているきらいがあります。例えば、ブラスト処理すれば1種ケレン(素地調整程度1種)と認識されていますが、重度に腐食した部位では塩類やさびが十分除去できず、1種ケレンの品質が確保されていない場合も少なくありません。その結果、塗膜下腐食などが早期再発して、何度、塗替えしても、再発が避けられず、腐食進行が一向に抑制できない事例が多々あります。なかには、主部材が破断するなどの事故に至っています。

 入隅部や狭隘部、閉塞部などの構造ディテール、腐食の程度や要因により、ブラスト処理が難しい部位や、現在の素地調整技術ではブラスト不可能な部位についてもまとめています。

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