道路構造物ジャーナルNET

大規模リニューアル ロッキングピア対策 特殊橋の耐震補強など

中日本高速道路の構造物の保全はどこまで進んでいるか

中日本高速道路株式会社
前 取締役常務執行役員 保全企画本部長
(現 中日本ハイウェイ・エンジニアリング東京株式会社
   代表取締役社長)

猪熊 康夫

公開日:2018.07.18

伊勢湾岸道で鋼床版Uリブ溶接部の疲労亀裂を確認
 坂部高架橋における対傾構の疲労亀裂

 ――鋼部材の損傷事例とその対策について
 猪熊 伊勢湾岸道は平成14年道示による疲労詳細以前の橋梁、例えば名港中央大橋では、平成26年4月に鋼床版Uリブ溶接部の疲労亀裂が確認されています。その後の追跡調査において、伊勢湾岸道の鋼床版を有する複数の橋梁において、新たな亀裂の発見、進展が確認されており、早期の対策が必要になりました。


鋼橋の損傷および疲労対策例

 緊急対策として、ストップホールや鋼板当て板補強を施しています。また、今後の恒久対策としてSFRCによるデッキプレートの補強を計画中です。また、点検で確認しにくいことも課題であるため、新たな調査手法として、「フェイズドアレイ超音波探傷技術」を開発しました。
 もう一つの象徴的な事例としては東名の坂部高架橋における対傾構の疲労亀裂があります。事前の点検で対傾構まわし溶接部に疲労亀裂が疑われる塗膜割れが確認されました。


坂部高架橋の損傷状況と対策事例

 そのため平成27年度に磁粉探傷試験による調査を実施した結果、疲労亀裂が確認されました。ただし、当て板が必要な貫通亀裂ではなかったため、打撃処理(ピーニング)による溶接部の疲労亀裂対策を実施しました。
 ――今後の対策すべき箇所を挙げてください
 猪熊 東京支社管内で相模川橋、栗原川橋(横浜保全・サービスセンター)、引き続いて坂部高架橋と勝間田高架橋(静岡保全・サービスセンター)で補修工事に着手しています。
 また、金沢支社管内の梯(かけはし)川橋(金沢保全・サービスセンター)で今後補修に着手する予定です。いずれも支承付近の鋼桁に疲労亀裂が発生している状況で、当て板による補強と合わせてゴム支承への取替を実施します。

塩害は東名の由比、伊勢湾岸道、北陸道、西湘バイパスなどで顕著
 電気化学的防食工法を採用

 ――塩害やアルカリ骨材反応による劣化状況は
 猪熊 塩害について申し上げますと、飛来塩分による損傷は、東名の由比、伊勢湾岸道、北陸道(金沢西~片山津)、小田原厚木道路・西湘バイパスなどで出ています。特に西湘バイパス、伊勢湾岸道の前後(名港トリトン、木曽揖斐三川)で飛来塩分が顕著です。


飛来塩分の影響を受ける路線(赤線部)

 ――凍結防止剤散布による損傷は
 猪熊 積雪寒冷地で多量の凍結防止剤を散布しており、その影響により床版や地覆・高欄、桁端部など広範囲に損傷が生じています。現在、当社では凍結防止剤に含まれる塩分による損傷を減らすため、従来の塩化ナトリウムよりも金属腐食抑制効果に優れるプロビオン酸ナトリウムに着目し、現場への適用性を検討しています。


凍結防止剤の累積散布1,000t/km以上の対象路線

 ――塩害対策の事例を挙げてください
 猪熊 北陸道では、橋桁端部を主として塩害に起因する変状が生じていることを踏まえて、平成15年に布施川橋下り線において、電気防食(チタンロッドによる外部電源方式)による塩害対策を実施しました。電気防食施工後、日常点検・定期点検により直流電源装置などの変状確認で通電電流量などの計測を実施しており良好な状態を保っています。今後同様の塩害対策を実施していく予定です。


塩害対策事例

 ――東名の由比付近は塩害が激しいことで有名です。飛沫が激しく、波浪で通行止めになることもあります。静岡県の管理橋梁で海に膨らむような線形のPC橋(雲見大橋)がありましたが、大規模な外部電源の電気防食で補修をしました。それでも架け替えるまでの10年くらいもってほしい、ということでした。由比は同じような状況にあり、飛来塩分だけではなくサンドブラストも効いているため表面保護塗装も効かないという話を前に聞いています
 猪熊 そうですね。由比だけでなく、西湘バイパスも海岸にそって走る道路ですので、海風や波浪の影響を受けて飛来塩分による構造物の劣化が進行しています。
 そのため、塩害による劣化の著しい滄浪橋(西湘バイパス)や薩埵高架橋(東名)において溝切り作業を省力化した新しい電気防食工法(PI-Slit工法)を過去に採用しています。


滄浪橋(西湘バイパス)や薩埵高架橋(東名)の対策状況

 なお、西湘バイパスでは、脱塩工法を新たに採用する予定です。

ASRは北陸や中央道の飯田・多治見管内で顕著
 損傷箇所を経過観察している状況

 ――ASRによる損傷は
 猪熊 特に北陸道で見られている状況ですが、注入や表面被覆を行って、表面膨張量や鉄筋ひずみの状態を見ています。極端に進んで、困っているといったところはありません。経過観察している状況です。


ASRの影響が懸念されるエリア(赤囲み部)

 ――ASRは水の供給を防げばある程度止めることができますが、橋台においては背面から水が回るので防げる状態にない、と聞きます。その辺りはをどう考えていますか
 猪熊 ASRだけでなく複合的に飛来塩分の影響があるのかもしれません。ただし、我々のものは相対的にそこまで深刻な損傷までは至っていません。


ASR対策事例

大規模更新・大規模修繕は総額約1兆300億円
 現在は4箇所で床版取替を実施中

 ――大規模更新・大規模修繕の進捗状況は
 猪熊 現在、小田原厚木道路で1箇所(川端高架橋)、中央道の調布IC、中津川IC~園原IC間、伊北IC~岡谷IC間、北陸道の福井IC~鯖江IC間で行っています。今秋には、北陸道の魚津IC~黒部IC間と、継続して中津川IC~園原IC間、伊北IC~岡谷IC間、冬に向けて東名の裾野IC~清水IC間についても施工していきます。


川端高架橋

調布IC

赤渕川橋

松ヶ平橋

平出高架橋

 ――大規模更新・大規模修繕における中日本高速道路の予算規模は
 猪熊 約1兆300億円です。執行は若干苦労している状況です。今年度の発注で累計2,000億円、約2割に達します。5年間で2,000億の仕事をやる予定でしたが、4年目で契約ベースでは当初考えていた額に到達するという状況です。


大規模更新・大規模修繕概算費用

発注は大型化していく
 施工の効率化と施工者の利益確保のためにも多能工化は必須

 ――発注は大型化しますか
 猪熊 します。現場の条件などによりますが、当社では基本契約方式を積極的に活用していきます。
 同方式は、最初の1、2橋は詳細設計に沿って施工しますが、それを踏まえて残りの工事については、受注業者に設計・施工を担っていただき、3年くらいで対象範囲を完了させるという方式です。

 ――PC建協会長のインタビューを最近行った際、私の方からNEXCOの大型化の状況はゼネコンにとってはありがたいが、単体のファブにとっては厳しいのではないか、という些か意地の悪い質問をしました。実際大型化が進んでいくと、すべてゼネコンにとられると、戦々恐々としているファブもあります。今回、スーパーゼネコンが元請を担い、ファブはPC床版の製作のみを行うという事例も出てきました。ファブにとっては厳しい状況です
 猪熊 ゼネコンでも規制をかけながら工事をするのは必ずしも得意ではありません。逆にPCファブでも規制をかけながらの施工は得意なところもあります。施工も担うファブとして振る舞うか、パネルメーカーとして供給に携わるかは、各社が判断することですし、(供給のみというのは)必ずしも悪い話ではないと思います。

 ――現在、現場も担当したいファブと、パネル供給に変わりつつあるファブ=メーカーと分かれつつあります
 猪熊 PCファブには、現場を動かせる部隊もいるし、工場製作(床版供給)の部隊もいます。床版供給だけでも次への大切な実績になります。施工現場はやはり大変で、そのリスクをヘッジして会社の業績になるのなら、いいと思います。全部自分でやらなければダメだということではなくて、数量も多いし、供給も大事な仕事だから、広い気持ちでやって欲しいですね。
 ――大型発注と単独発注はどのように分けますか
 猪熊 痛み具合や交通の切り回しで、ある程度まとめられそうな箇所や、場所によって部分的に直したい箇所もあるので、それらを勘案していきます。ただ、できるだけ大型化したいことは確かです。ある程度できる前提に立てば、床版の取替えだけだったら2ヵ月くらいで終わります。そのピークだけの仕事をやるために人を集めるのも大変です。そうすると前後の仕事はあったほうがいいと感じています。どの仕事があればいいのかは難しいですが、トンネルや土工といった別の更新工事があればいいのか、橋でいえば橋台や橋脚を直す、支承交換や鋼部材補強、塗装塗替え、伸縮装置交換などをなるべくパッケージにして、平準化して働ける仕事のほうがいいという方も多いと感じています。
 そう考えると、さまざまな工種を入れていかなければならないことに必然的になります。鋼部材補強やダンパー設置が本当に一緒にできるのか、現場で働く人たちが同じ人かというのはありますが、ある程度マルチにできる方が必要だと思います。絶対的に大きいかは別にして、さまざまな工種をまとめて出したいですね。そうでなければ、床版取替え60日間、塗替塗装90日間、鋼部材補強60日間、それを単発で出すのか。それはお互いに非効率です。
 ――藤井会長(PC建協)も多能工化は必要だと言っていました
 猪熊 そういう時代だと思います。
 ――今年度の大規模更新・大規模修繕の発注総数は
 猪熊 今年度発注は41件を予定しています。

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