道路構造物ジャーナルNET

有明海沿岸道路などが進捗

福岡国道事務所 筑後川橋・早津江川橋など長大橋の建設が進む

国土交通省九州地方整備局
福岡国道事務所
所長

安部 勝也

公開日:2018.03.16

徳益IC ~柳川西IC 間が平成29年9月16日に開通
 筑後川橋(仮称)・早津江川橋(仮称)は上部工の架設に着手

 ――有明海沿岸道路は
 安部 有明海沿岸道路は、昭和63年度に事業化、平成12年度に着工しました。初めて開通したのが、大牟田IC~高田ICです。10年目の昨年9月16日に柳川市内の4.5km(徳益IC~柳川西IC間)が開通しました。今回の開通で大牟田市・みやま市・柳川市・大川市の4市が自動車専用道路で直結し、三池港ICから諸富IC(仮称)までの総延長約29kmのうち約8割となる延長23.8kmが暫定2車線で繋がりました。
 現在、福岡国道事務所においては大川東ICから佐賀県境までの約5kmについて調査設計、用地買収、自動車専用道路の工事を進めています。この中で、平成26年度に着工した筑後川橋(仮称)の渡河部(鋼4径間連続中路式アーチ橋)については、デ・レイケ導流堤上に構築するP6橋脚や右岸側のP7橋脚が平成29年度完成し、10月から上部工の架設に着手しました。また、平成27年度に着工した早津江川橋(仮称)についても左岸側(福岡県側)のP4橋脚が完成し、11月から上部工の架設に着手しています。平成27年度から事業着手をした三池港IC連絡路についても調査設計等を進めています。


有明海沿岸道路 大川高架橋、筑後川橋、早津江川橋(いずれも仮称)の橋梁概要

橋梁部は地質条件に応じた杭基礎を選定
 盛土部は主に浅層混合処理工+深層混合処理工

 ――同地は全体的に軟弱地盤ですが、その対応は
 安部 橋梁部は、地質条件に応じた杭基礎を選定したうえで、橋梁位置での支持地盤の深さに応じて、支持杭と摩擦杭を選定しています。具体的には、大川連続高架橋(仮称)(2,086m、鋼4+5+6+3+5+4+4+3+5+5+4+3径間連続非合成鈑桁橋)については鋼管ソイルセメント杭(摩擦杭)を採用し、筑後川橋(仮称)・早津江川橋(仮称)の陸上部は基本的にφ1,000~1,500mmの場所打杭(支持杭)を採用しています。
 盛土部においても、地質条件や一般道路等への影響を考慮し、浅層混合処理工+約10m~20mの深層混合処理工を採用しています。

デザインに配慮した筑後川橋(仮称)・早津江川橋(仮称)

 ――特徴ある構造物は
 安部 現在施工中の構造物では筑後川橋(仮称)と早津江川橋(仮称)です。筑後川橋(仮称)は全長1,008mの橋梁で特に特徴的なものは渡河部の鋼4径間連続中路式アーチ(単弦2連)橋(450m)となっています。また、早津江川橋(仮称)は全長854mの橋梁で、特に特徴的なものは、筑後川橋と同様に渡河部が鋼4径間連続中路式アーチ(単弦1連)橋(448m)となっています。筑後川橋(仮称)、早津江川橋(仮称)は、ほとんど同じ橋長ですがアーチの数が異なっています。両橋については設計検討委員会において景観への配慮を踏まえて議論頂き橋梁形式などを決定しました。デザインコンセプトは各々の橋梁で設定されており、筑後川橋(仮称)が「デ・レイケ導流堤や昇開橋と共に、筑後の水文化を継承する橋」、早津江川橋(仮称)が「三重津海軍所跡に馴染む、緩やかなラインが美しく見える橋」です。
 両橋とも上部工は鋼橋のため、桁の塗装色も委員会で検討頂き決定しており、筑後川橋(仮称)は昇開橋や新田大橋など赤い色の橋梁が周辺にあることや、筑後川の河川そのものが少し茶褐色であることを踏まえて、淡い桜色の塗装色にしています。また早津江川橋(仮称)は周辺に大変緑が多い場所に建設するため緑を基調とした塗装色を採用しています。
 もう1つ、構造上の特徴としては、アーチの吊材が異なります。早津江川橋(仮称)は鉛直の吊材を採用していますが、筑後川橋(仮称)は地元の大川組子細工を意識してクロス配置を採用しています。
 また、風対策の検討も必要でした。風洞実験を行った結果、筑後川橋(仮称)の耐風対策は不要でしたが、早津江川橋は道路線形から曲線橋となっており、また、桁の厚さが3.5 mと厚いことにより風の影響を受ける構造のため、橋梁側面にフェアリングという風切りを設置し、橋梁が受ける風の乱れを防ぐことで構造や走行の安全性を確保しています。
 板組についてはFEM解析により応力の流れを把握し、フィレットを設けることやダイヤフラムを追加するなど板組を工夫することで応力集中を回避しています。
 さらに、歴史への配慮として、筑後川橋(仮称)はデ・レイケ導流堤に橋脚(P6)を設置する必要がありました。デ・レイケ導流堤内に橋脚を収めるコンパクトなデザイン、さらに装飾を避けた表面仕上げとすることで、デ・レイケ導流堤の価値を引き立てるデザインとしました。
 早津江川橋(仮称)は平成27 年に明治日本産業革命遺産として世界遺産に登録された「三重津海軍所跡」付近において、シンプルな橋梁形式(2連アーチにしない)を採用することで、橋梁自体を目立たせないように配慮しています。また、橋梁の下から見た時に圧迫感がないよう桁高を抑え、なおかつ三重津海軍所跡をロングスパンで跨ぐ橋種を採用しています。


P6橋脚をデ・レイケ導流堤に設置

P6 橋脚をデ・レイケ導流堤に設置
 景観をできるだけ変えないように配慮

 ―― デ・レイケ導流堤の対応についてもう少し詳しく
 安部 明治23 年にできた長さ6.5 ㌔、幅5.7 m(張石部)、全幅11.5 m(捨石部含む)の石積みの堤です。デ・レイケ導流堤は、河道のほぼ中央部に設置されており、その機能は川幅を狭くすることで流速を速くし、河口付近でのガタ土の堆積を防止することで航路を維持する機能を果たしています。基礎部はオランダからの導入工法である粗朶沈床(そだちんしょう)と呼ばれる雑木の枝葉を束ねたものを沈め、軟弱な地盤にも耐えうる構造としています。完成から100 年以上経た現在もその役割を果たし、当時の姿を残している土木構造物として歴史的、技術的価値の高いものと言えます。一方で、建設当初の設計図は見つかっておらず、現在までに台風などで損傷を受けた際に石積み補修や一部改良工事が実施されているものの、大きな補修や改修の記録はなく、当時の姿をほぼそのまま残していると考えられており、技術性や歴史性、意匠性が高い反面、内部構造は明らかになっておりませんでした。
 P6橋脚の施工にあたり、まず調査工としてデ・レイケ導流堤の一部を解体し、内部構造を調査・記録したことにより、導流堤の構造が初めて解明されました。

鉛直材が必要な2つの理由
 無い場合は断面力が約2 倍、損傷もP6 部材が先行降伏

 ―― アーチの受台部分に鉛直材を配置していますが、これはどのような理由から設けているのですか
 安部 鉛直材ありと無しの2 ケースにて検討を行い、構造的な観点に基づき鉛直材を設けています。
 ――その要因とは
 安部 確かにデザイン的にはない方がすっきりします。しかし、単弦の2径間連続バランスドアーチ橋は国内初めての試みであり、鉛直材の役割を判断するため、3D 解析による常時(死荷重時、活荷重時)、地震時( L1 ・L2 )のそれぞれについて性能照査を実施した結果、鉛直材には2つ大きな役割があることが解りました。
 1つは鉛直材を設けていない場合は、アーチリブ分岐部(補剛桁直下)に作用する断面力(正確には曲げモーメント)が約2倍になることが解りました。この断面力は繰り返し作用する活荷重によるものであり、疲労破壊を考慮する必要があります。現在、国内の鋼構造物の疲労研究を俯瞰しても、漸く鋼床版の疲労が解ってきた段階で、鋼製橋脚、鋼アーチリブの疲労などについて多くの知見が出ているとは言い難い状況です。
 もう1つは、地震が起きた時の限界状態を把握するためプッシュオーバー解析(破壊に至るまで負荷をかけ続ける)を行った結果、鉛直材の有無で壊れる箇所の順番が変わることが明らかになりました。


上部工の施工①

 ――具体的にはどのように変わるのですか
 安部 鉛直材を設けている場合は、アーチ両端部P5、P7の横支材が最初に降伏し、次いでP5、P7のスプリンギング部(ここではアーチリブの補剛桁より下部分を指す)が降伏します。即ち筑後川河川内のデ・レイケ導流堤直上にあるP6 橋脚上のアーチ部材は先行降伏しません。しかし、鉛直材が無い場合は、P6 上の横支材が最初に降伏し、次にP6 上のスプリンギング部が降伏します。


上部工の施工② 複雑な構造を有するスプリンギング(井手迫瑞樹撮影)

 ――なぜ、P6に損傷が集中してしまうのですか
 安部 これは単純にP6橋脚が一番高く、地震時の橋軸直角方向に働く慣性力が大きくなるためです。大地震が起きた場合、どこを守れば、どこを先行破壊するように設計すれば、震災後の修復がし易いか、また、疲労損傷が起きにくい構造を考慮した上で鉛直材を採用しました。この検討は設計検討委員会により高度な技術的判断を頂きました。

製作・架設はCIM を用いてシミュレーション
 アーチリブは全て現場溶接

 ――次に桁の製作・架設について
 安部 桁の製作については、主に鉛直部材を中心に、通常のアーチ橋とは異なる部分が多いことを考慮し、3DCAD ( CIM )を用いてシミュレーションしています。隅角部の板を1 枚ずつどういう順番で製作し、添接、溶接していくか画面上で確認し繰り返し改良を加えました。
 ――どこが添接で、どこが溶接ということになるのですか
 安部 補剛桁(幅員20 m、延長約8~10 m、鋼重20t以下)は、橋軸方向の外側が見える部分の継手は溶接を採用し、橋軸直角方向の断面の輪切り部分においては添接を採用しました。アーチリブは景観上の観点から添接ではなく全て現場溶接で繋ぐこととしました。
 ――アーチリブを溶接で繋ぐのは景観だけでなく、防食耐久性向上の観点からも意味があると思いますが、反面高い施工技術力を要求されます
 安部 基部は長方形から上部に行くにしたがって台形に形状変化していきます。これは景観上の観点から、太陽の光をできるだけ真正面から受けられるように面を綺麗にしたいとのコンセプトがあったためです。
 ――アーチはボルトで仮止めした後に仕口を合わせて溶接するのですね
 安部 そうです。筑後川橋(仮称)・早津江川橋(仮称)のアーチリブは箱桁形式ですから、桁内の縦リブを利用して仮止め、形状を合わせた上で溶接した後、仮添接部を開放するという方法になります。非常に高い精度管理が必要になると考えています。
 ――溶接は非常に精密なものが要求されると思いますが、施工時期にそれだけの熟練技能者を用意できますか
 安部 現実的に確保可能な技能者の数を想定し、工程を設定しています。

隅角部は台船上から架設
 補剛桁はP5~P6間のみ送り出し

 ――架設手順は
 安部 隅角部(支点部や補剛桁とアーチリブの接続部など)は重いため、陸上から運ぶことはできず、台船で水上から運ぶことになります。そして仮桟橋上の200 tクローラークレーンで橋脚上に架設していきます。まずスプリンギング部の架設を行い、スプリンギング部の架設が完了した後、鉛直材を架設します。
 鉛直材はスプリンギング部を渡す部分の補剛桁架設のベントの役割も果たします。その後両側に必要なベントを建てて補剛桁を架設します。補剛桁の架設はP6 からP7 間は水上部にベントを建てクローラークレーン+ベント工法で架設します。P5からP6 間の補剛桁は航路への配慮が必要で、ベントを建てる箇所が限られるため、側径間の桁を先に架設し、その桁上で水上部の桁を地組みし、手延べ桁で送り出す架設方法を採用しました。なお、P5 からP6 間では航路幅を確保するため、ベントのスパンが70m以上となる区間があり、補剛桁がスパン中央で160mmのたわみを生じ、仕口が上を向いてしまうため、対策としてジャッキ高さの調整などを施すことで仕口を調節する手法を用いる予定です。
 ――仕口の合わせ方というと、最終ブロックで調整する方法がよく使われますが、それではないのですね
 安部 アーチリブはその方法になります。
 補剛桁の架設時はアーチリブが繋がっておらず支承が固定されていない状況ですので、ある程度自由に架設・調整を行えます。ただし、アーチリブは補剛桁が既に繋がった状態でアーチを閉合しなければならないため、アーチ両端の補剛桁直上の基部で仕口合わせをする必要があります。作業は、ブロックの長さや形を合わせて溶接することになる予定です。

沈下への対応は僅かな板厚増加で可能

 ――ますます微妙な精度が要求されるわけですが、そもそも架設場所は軟弱地盤であるわけですが…… 沈下への対応は考慮していますか
 安部 仰るとおりの地盤のため、弾性沈下量の他、仮に、基礎直下の深部の洪積地盤で圧密沈下が発生した場合でも、設計通り上部工を架けられる工夫をしています。設計で想定した沈下量はP6で10cm程度となり、考えられるリスクを考慮し板厚を2mm程度厚くすることで許容応力を満足することが出来ます。
 ――筑後川橋(仮称)・早津江川橋(仮称)はいわゆる長大・特殊橋であるわけですが、維持管理はどのように行っていきますか
 安部 日常点検・定期点検を行う際の仕様は、詳細設計段階で方針をまとめています。また、橋脚や橋脚上の支承を点検しやすいよう、最も小さい断面となる鉛直材においても1.2m角程度の大きさにしており、点検時は鉛直材内の梯子を伝って降りられるように工夫しています。

大川連続高架橋(仮称)は下部工が完成し上部工に着手
 早津江川橋(仮称)はアーチ1連で上部工は約6,000t

 ――長大橋2橋を含め、有明海沿岸道路の残り区間はどこまで進捗しているのでしょうか
 安部 大川東IC~大川中央ICについては橋梁部の下部工が全て完成し、大川連続高架橋(仮称)の上部工工事が始まっています。大川中央ICから佐賀側は下部工工事を進めており、筑後川橋(仮称)は10月から、早津江川橋(仮称)は11月から上部工架設に着手しました。
 ――先ほども話されましたが、二次元的にも三次元的にも形が複雑で難しいという話も聞いています
 安部 早津江川橋(仮称)は1連で上部工は約6,000tあります。スプリンギングはとても重要な部位ですので、それだけで約100tの重さがあるため3分割して台船による運搬・架設しました。


早津江川橋の施工

 早津江川橋(仮称)下部工については、P4は完成していますが、P5の躯体コンクリート打設時期が海苔の養殖時期と重なり、コンクリートのアルカリ成分が海苔養殖に影響を与えることが考えられるため、躯体コンクリートの打設前で中断しています。中断している間でも河川の水がアルカリ化する可能性があるため常に中和処理を続けて海苔養殖へ影響が出ないようにしています。


P5橋脚(井手迫瑞樹撮影)

 ――筑後川橋(仮称)の状況は
 安部 早津江川橋(箇所)と同様で、P6、P7は完了していますが、P5が躯体コンクリート打設前で中断しています。
 ――下部工の河川への配慮は
 安部 鋼橋形式を採用し、下部工や基礎工は可能な限りコンパクトな設計としています。基礎工は鋼管井筒基礎を採用しており、鋼管どうしの継手部はモルタルを打設する必要があります。この継手部にあらかじめビニールを中に入れて打設することで、河川へコンクリートが流れない工夫を施しています。実際には海苔の養殖時期は水中での養生ができないため時間との勝負になります。
 ――のり期は
 安部 9月から3月までが海苔の養殖時期です。その間はコンクリート系の施工は行わない配慮をしています。
 ――鳥栖久留米道路は
 安部 鳥栖市の環状道路の一部を形成する道路ですが、構造物でいえば筑後川を渡河する(仮称)筑後川橋(393m、鋼5径間連続非合成箱桁橋)があり、床版工事を発注して業者が決まったところです。今年度、来年度で床版工事を行っていきます。また、未着手の橋梁も12橋ほどあります。
 ――筑後川の床版工はかなり大規模なものになりますね。構造形式は
 安部 場所打ちのRC床版を予定しています。
 ――他、架替橋は
 安部 国道208号の浦島橋(橋長160m、3径間連続鋼床版箱桁橋)があります。現在は舗装を施工中で、この3月10日に供用しました。
 ――旧橋は
 安部 完成後に落とします。撤去は来年度からです。
 ――国道322号の八丁峠道路事業は
 安部 八丁峠トンネル(3,791m)はすでに貫通しました。現在は、舗装や付属物工事を行っています。


貫通した八丁峠トンネル

 ――浮羽バイパスは
 安部 久留米市~うきは市間の国道210号の混雑緩和などを目的に建設が進められているバイパスです。既に13.98km中、うきは市側の12.9kmが2車線供用されています。残る1kmについても用地買収などを進めています。

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