道路構造物ジャーナルNET

熊本地震への対応も聞く

NEXCO各種要領の平成28年度改訂詳細

高速道路総合技術研究所(NEXCO総研)
道路研究部 橋梁研究室長

広瀬 剛

公開日:2016.11.01

   NEXCO総研は、今年度も8月1日付で各種要領の改訂を行った。橋梁分野では大規模更新の本格化に配慮してプレキャストPC床版関連の記述を大幅に増やした。その話題を中心に聞くとともに、防食分野では溶射の記述、性能比較についても詳しく聞いた。また、今後の研究について既設塗膜の剥離方法の試験方法などについても聞いている。またビビットな話題として熊本地震への対応~ロッキングピアの補強をどのように行っていくか~についても広瀬剛橋梁研究室長に詳しく論じていただたいた。(井手迫瑞樹)

ロッキングピアをどのように補強していくか
 上を剛結し、下のヒンジはそのままにしておく方法も

 ――熊本地震は震度7が極めて短い間に近い場所で2回起きたという大規模な震災だったわけです。NEXCO西日本でも木山川橋、並柳橋など少なくない橋梁が損傷を被り、ロッキングピアを有する府領第二橋は落橋に至ってしまいました。まずロッキングピアからどのように補強していくのか、技術的な側面を教えてください
 広瀬室長 基本的には国土交通省の道路技術小委員会で発表された内容(既報)に基づき、自立構造を目指した補強を行っていきます。具体的に言えば全体を壁化していくこと になろうかと思います。但し上下とも剛結にするのではなく、どちらかの支承構造を残すとことになります。あとはアバット側のラーメン化、もしくは(アバット上の)支承をレベル2仕様の補強をするかだと思います。
 ロッキングピアは道路公団がある時期に推進してきた構造であり、非常に合理的に中分が狭い中で鉛直支持し、景観的な配慮をした構造です。


ロッキング橋脚の耐震補強方法(NEXCO総研提供、以下注釈なきは同)

 ――補強の手法はNEXCO独自なものはありますか
 広瀬 壁化する自立構造もありますし、鋼材をロッキングコラム間に筋交いのように配置する半自立構造もあります。
 ――ロッキングピアを有する高速道路跨道橋は、少なくとも400橋以上あるといわれています。これらの橋梁は供用中の高速道路上で行われるものであり、その難易度は並大抵のものではありません。NEXCOでは今後どのように耐震補強を行っていきますか
 広瀬 自立構造とする場合、レベル2対応しなければなりませんが、その際に供用下での施工を考慮して基礎の補強がなるべく無いようにしたいわけです。そのためには(ロッキングピア上下に位置している既存ヒンジのうち)下のヒンジはそのままにしておくこともあると思います。
 ――下のヒンジを残して上は剛結する構造ですか
 広瀬 そうです。それであれば、基礎に負荷を与えず、増杭などの基礎補強が少なくなると考えています。その際、橋台は支承、剛結どちらでも対応可能であると考えています。
 ――道路技術小委員会では上下剛結の案が示されていましたが
 広瀬 それが一番良いかもしれません。しかし施工は大変です。特に跨道橋がPC桁の場合は(剛結のための)配筋が難しいですし、桁と橋台の剛結部に生じる桁の引張に対処するために、橋台の背面で路面を開削して補強するということもあり得て、管理者には厳しい施工です。
 ――確かにPC桁の後剛結はケーブル位置を考慮すると非常に難しいですね
 広瀬 現場条件によっては、上下のヒンジを残して筋交いで柱間を繋げるか、壁化する半自立構造を採用せざるを得ない個所も出てくると思います。
 現在はそうした様々な条件を考慮し、当社で標準設計を作っている状況です。
 ――こうした補強を行う場合、規制はどのようなものになりますか
 広瀬 少なくとも1車線は規制しなくてはいけないでしょう。

斜材付π型ラーメン橋 決定的な落橋は起きず
 幅員が狭い同形式の橋梁は対策が必要

 ――斜材付π型ラーメン橋はどのように考えていますか
 広瀬 今回の地震でも落橋は免れており、基本的に補強は必要ないと考えています。
 (熊本市管理の)今回撤去された歩道橋も、鉛直材に大きなせん断ひび割れが生じていましたが、落橋という決定的な事態は起きていませんでした。ただし、幅員の狭い斜材付きπ型ラーメン橋について何らかの対策は必要です。

木山川橋など本線部の対策
 段差防止構造や機能分離支承を用い、合わせて主桁を補強

 ――木山川橋など本線橋の損傷については
 広瀬 損傷の状況から支承部の補強はせざるを得ないかなと考えています。具体的にはL2支承への交換や段差防止構造の設置等です。特に問題なのは復旧に時間がかかってしまうことです。なるべく早く復旧できるように多少損傷しても段差が生じないような構造にすることが大事です。ただ、数が多いので補強するとなると大変です。


木山川橋の一部(井手迫瑞樹撮影)

木山川橋の損傷状況①

木山川橋の損傷状況② 下フランジの変形/上部構造主桁の支承からの脱落
(左写真は井手迫瑞樹、右写真は読者提供)

 ――移動制限装置がなかったことが被害を拡大したとは考えられますか
 広瀬 確かに木山川橋は、河川横過部以外は橋軸、橋軸直角方向とも装置を設置しておらず、取り付けていれば被害は小さくなったかもしれません。支承も1本ローラーであり、さらに構造的には3径間連続桁の1点が固定、2点が可動になっていました。可動脚が1本ローラーだと耐震性が低いため、壊れやすい。なおかつ1点固定個所に地震力が集中してしまうので、それで下フランジなどが座屈してしまう分けです。
 ――対応策は
 広瀬 基本は、段差防止構造や機能分離支承を用い、合わせて主桁を補強して、L2対応にもっていくような対策になろうかと思います。

架け違い部の柱対策を注視
 長大橋の耐震補強

 ――並柳橋のような特殊長大橋への予防保全的な対策は
 広瀬 個人的には、応急的な復旧のみを考えれば、トラス橋は補強の優先順位はそれほど高くないと思っています。中越地震の時もそうですが、応急復旧に関してはトラス橋の鉛直支持はなんとかできていました。しかし隣接する桁の耐震性が低いと思います。
 ――並柳橋の場合、鋼鈑桁が隣にありますね
 広瀬 そう。そういう小さな桁が隣に付いていることが多く、そうした桁が損傷するケースがままあります。例えば沓が損傷したり、耐震連結装置で繋がっているためトラス桁と同調し、思わぬ挙動を示す場合があります。こちらの方が心配です。トラス桁そのものは結構耐えます。確かに沓が壊れることや下弦材が座屈するようなことはありますが、応急復旧には今まで大きな支障害はなかったように思います。但し、本復旧には期間を有することもあり、これからはトラス桁も優先順位を高くしてきちんと耐震補強をしていくことが必要と思います。


並柳橋の損傷状況(NEXCO西日本発表資料より抜粋)

並柳橋の損傷状況拡大写真

 ――耐震連結装置が軽い桁の方を引き摺るという挙動の可能性は大阪市立大学の北田俊行名誉教授が唱えていた「ヒューズ論」を思い出します
 広瀬 ただし、逆の可能性もあります。連結装置を付けていたからこそ鈑桁が落橋せずに残ったということもあるかもしれません。
 ――つまりトラス桁が助けたということですね
 広瀬 現場を見る限りは鈑桁が動いています。トラス桁と鈑桁を結ぶ耐震連結装置が落橋を防止したように思います。

踏掛版の設置は必須

 ――応急復旧は容易な反面、巨大なトラス桁は本復旧が非常に難しいと思いますが
 広瀬 それはもちろんです。単純に桁重が重く、支承交換や座沓部の補強一つとっても様々な補強(支承交換時の格点部補強など)、工法上の工夫(1,500㌧ジャッキの使用など)が必要になります。それに架け違い部の段差の上に小さな方の桁が乗っかっているので、この段差の部分が衝突などで壊れる可能性もあり、これに手当てをしていくことは必要かもしれません。並柳橋の場合、アバットにしっかりと桁が固定されているためトラス桁が柱の段差部分に衝突したものの、損傷はありませんでした。しかし、今後はトラスに限らず大きな重量を有する方の桁が架け違い部の柱に当たらないような対策を施すことも考えなくてはいけない。鋼桁より(さらに重量がある)コンクリート桁の方が危ないと考えています。例えば一方が箱桁で一方が中空床版の場合などです。
 事業者として震災の際に常に念頭にあるのは、一般車が通れるように如何に早く供用するかです。どんなに傷ついていようと橋梁を鉛直支持して、ある程度の地震に耐えられると踏めば、開放します。そういう損傷状態に抑えられるよう(地震時の損傷を)コントロールできるようにしなくてはなりません。
 また、橋台背面への踏掛板の設置は必須だと思います。地震の際には、橋台と盛土の境目に大きな段差を生じることがままあり、それを緩和するのに有効です。

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