道路構造物ジャーナルNET

架設後50年以上の橋梁は1100橋、トンネルも5割

福岡県 5017の橋梁、31本のトンネルを管理

福岡県
県土整備部
道路維持課長

小路 智

公開日:2016.09.07

塩害、ASRによる劣化で主桁や下部工に損傷
 ASRリチウム工法やシラン系含浸材で対応

 ――塩害、ASRなどによる劣化の有無。劣化があればどのような形で出ているか(劣化部位やその劣化程度、面積)、その対策工法などを具体的な橋梁を挙げて答えて下さい
 小路 これまでの定期点検により塩害やASRの劣化が確認された橋梁が数橋あり、主桁や下部工にひび割れや遊離石灰、剥離・鉄筋露出などの損傷がありました。



塩害による損傷(いずれも弁天大橋;糸島市内)

 ASRが疑われる損傷(城の下橋:八女市) 

 塩害による補修橋梁については、塩害とASRによる複合劣化対策として、鉄筋近傍のコンクリートに浸透拡散型亜硝酸リチウムを内部圧入することにより、鉄筋周囲に不動態被膜を再生し、以後の鉄筋腐食反応を根本的に抑制するASRリチウム工法を採用したケースもあります。また、ASRの劣化がある橋梁について水の浸入抑制を目的として撥水性のあるシラン系の表面含浸材の塗布を予定している橋梁もあります。

ASRリチウム工法の施工

シラン系含浸材の塗布

直方大橋で14,000平方㍍を塗替え
 基本的にはブラスト 有害物検出されれば塗膜剥離剤と併用

 ――2015年度の鋼橋塗り替え実績(橋数と面積)と、2016年度の鋼橋塗り替え予定は。また塗り替えの際の全体的・部分的な用途でもいいので溶射など新しい重防食の採用についても答えて下さい
 小路 昨年度は鋼橋の塗装実績はありません。今年度は遠賀川を渡河する1橋(直方大橋)約14,000平方㍍を塗り替え予定です。新しい重防食の採用については把握しておりません。


直方大橋の塗装劣化や錆の発生状況

 ――既設塗膜の除去は1種ケレンですか、3種ケレンですか
 小路 設計段階では1種ケレンを選定しています。
 ――そのお答えを受けて次の質問ですが、PCBを含有する塗膜への対応はもちろん、厚生労働省・国交省から2014年5月30日に出た文書を受けて、鉛など有害物を含有する既存塗膜の処理についても湿式が推奨されていますが、どのような方策をとっていますか
 小路 橋梁や横断歩道橋などの鋼部材の塗り替えを実施する際には、施工前に既存塗膜の有害物調査を実施しています。試験結果により、基準値以上の有害物が検出された場合には、適切に保管・処理を行っています。例えば、鉛が検出された場合には塗膜剥離剤による飛散防止対策等を実施しております。
 直方大橋の場合でも工事着手前に塗膜調査を実施し、有害物が検出されれば塗膜剥離剤を用いて除去した後、ブラスト工法により素地調整を行う予定です。

 ――耐候性鋼材を採用した橋梁で錆による劣化・劣化損傷が報告されている事例が出てきていますが、福岡県では採用事例が何例あり、現状どのような健全度を示しているのか教えて下さい
 小路 本県では、約30橋について耐候性鋼材を採用しております。
 このうち、平成26年及び27年に近接目視点検を実施した橋梁が8橋あり、診断区分Ⅰが2橋、Ⅱが6橋となっています。
 ――機関によっては予防保全的に一番傷みやすい端部を塗装しているケースもありますが、福岡県ではそうした予防保全的な対処は行っていますか
 小路 現在のところ、そうした対処は行っていません。

法面・自然斜面の長寿命化修繕計画策定へ
 平成32年度までに

 ――全国的に異常気象などによる土砂災害が相次いでいますが、県として道路面の斜面や古い法面などをどのように補強・補修して道路を守っていくのか具体的な事例や計画がございましたら教えて下さい
 小路 法面対策の整備を進めることによって、防災・減災に結びつき非常時においても、通行が安全・安心の確保でき、危機管理上とても重要なことです。
平成18年から3年に渡り、道路防災点検を実施し、道路防災点検の結果から対策必要な箇所(要対策箇所)を抽出しています。
 要対策箇所の内、災害時に救助支援、物資の輸送に利用される緊急輸送道路及び雨量によって危険な道路に指定している雨量通行規制路線には、重点的に予算を配分しています。その結果平成27年度末で744箇所(そのうち緊急輸送道路上318箇所)の対策を完了しています。但し先の防災点検から10年経ちましたので、改めて点検する時期にきています。まだ積み残している201箇所はもちろん、点検により新たな要対策箇所も出てきます。今後も緊急輸送道路上と雨量通行規制区間は重点的に対策を進める必要があると考えています。


法面の点検

 さらに言うと、平成24年度の災害や今年度の災害でも、あまり危険性は高くないだろうと考えていた箇所で崩落が生じるといったこともありましたので、今年の点検から、そうした箇所の見方を考えていく必要があります。また10年間対策を行っている中で状況が変わる個所があるので、そうしたところをどのようにフォローアップするかが課題です。
 施工事例には、法面の安定の確保のため、安定勾配で土砂を切り取る切土工、法面の表面崩落を防ぐコンクリート吹き付けおよび法枠工、法面の滑りを抑止効果がある工法の鉄筋挿入工及びアンカー工があります。
 ――道路に面している法面や自然斜面への長寿命化修繕計画を立てる予定はありますか
 小路 はい。今、県全体の公共インフラの長寿命化修繕計画がありますので、個別計画の中でやっていくわけですが、一番遅れていると言えば法面・自然斜面ですので、大分県さんなど先進的に取り組まれている事例を参考にしながら早急に取り組み、平成31ないし32年までには作らなくてはいけない、と考えています。

 ――(公有地の外にある)民地からのもらい災害の課題もありますが、そうしたものには対応したものになりますか
 小路 その課題は、非常に苦慮しています。リスクがあるものを放置し(それが原因で事故が起き)ただけで、道路管理者の管理瑕疵を問われます。そのため地主さんに用地を提供していただきたいのですが、中々ご理解がいただけないというケースがあります。抜本的に対応するというのは難しい状況です。

新技術 仮締切STEP工法を採用
 トンネル 走行型点検車により点検を28本で実施

 ――新技術や、コスト縮減策または県独自の新技術・新材料などの活用について
 小路 本県では、県内の企業等が開発した新技術・新工法を積極的に活用する制度があります。技術の成立性が実験等の方法で確認されており、従来工法と比較して経済性、工程、品質等において総合的に優位であるものについては、設計業務委託にて、工法検討を行う際に比較検討工法に加えて検討を行っております。
 ここ最近では、橋梁の仮設工法である仮締切STEP工法を採用した事例があります。


STEP工法で施工した矢野竹橋(朝倉市)

 ――橋梁の架替や大規模修繕、トンネルの点検状況、トンネルやのり面について橋梁のような長寿命化修繕計画を企図した補修補強計画の進捗状況を教えてください
 小路 平成22年度に架け替え更新優先度を設定し、効率的・効果的に橋梁の架け替えを実施しています。
 また、トンネルの点検については、平成25、26年度に走行型点検車による点検を28本で実施しており、道路法改正後はこれまでに21本の近接目視点検又は詳細設計を実施しております。法面については、過年度より実施している道路防災点検により、必要な箇所の対策を進めています。


走行型点検車(MIMM)によるトンネル点検/従来手法によるトンネル点検

近接目視点検は21か所で実施

 ――ありがとうございました

ご広告掲載についてはこちら

お問い合わせ
当サイト・弊社に関するお問い合わせ、
また更新メール登録会員のお申し込みも下記フォームよりお願い致します
お問い合わせフォーム